車載マイコンで快走のインフィニオン、なぜRISC-Vを採用するのか:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
インフィニオン テクノロジーズ ジャパンは、足元の車載マイコンの事業状況や、新たに採用を決めたオープンソースのプロセッサコアであるRISC-Vの開発体制などについて説明した。
既に車載RISC-Vに対応する仮想プロトタイプ環境の提供が可能
ここまで説明した3つのポートフォリオに新たに加わるのがRISC-Vを用いた車載マイコンである。インフィニオンの車載分野におけるRISC-V開発の取り組みについては、インフィニオンドイツ本社 オートモーティブ事業部 マイクロコントローラープロダクトマーケティングアンドマネジメント シニアディレクターのマルコ・カッソル(Marco Cassol)氏が説明した。
RISC-Vはオープンソースのプロセッサコアであり中国を中心に採用が拡大しており、非営利団体のRISC-V Internationalで標準化が進められている。既に100億以上のRISC-Vコアが出荷済みで、インフィニオンの他にも、シリコンラボ、インテル、モービルアイ、シノプシス、ルネサス エレクトロニクス、マーベル、AMD、NXPセミコンダクターズ、STマイクロエレクトロニクス、NVIDIA、クアルコム、マイクロチップなどが開発に取り組んでいる。
カッソル氏は、インフィニオンが車載マイコンでRISC-Vを採用する理由について、「SDV(ソフトウェアデファインドビークル)への対応をはじめ自動車市場は転換期にあり、新しいアプローチが求められている。これまでも、コンピュータ向けのx86、モバイル機器で採用されたArm、自動車のリアルタイム制御で力を発揮するTriCoreなどのコアアーキテクチャが登場してきたが、RISC-Vは新たな車載プロセッサに求められるリアルタイム制御、データ処理、ネットワーキング、AI(人工知能)などの要件に対応可能な柔軟性を備えている」と説明する。
インフィニオンは、RISC-Vを車載マイコン向けプロセッサコアに最適な標準化を進める上で選択したのが合弁会社のQuintaurisだ。インフィニオンの他、大手ティア1サプライヤーであるボッシュ、車載マイコンで競合するNXPセミコンダクターズ、車載SoCで存在感を放ちつつあるクアルコム、そしてBluetoothなどの無線ICで有力なノルディック・セミコンダクターの5社が出資して2023年12月に設立された(2024年8月にSTマイクロエレクトロニクスが出資に参加)。
Quintaurisは、RISC-Vの標準化を促進する共同プラットフォームの開発とRISC-Vコミュニティーと政府機関との連携を目的としている。Quintaurisは車載、非車載を問わずRISC-Vの開発を行うが、インフィニオンはQuintaurisにおいて車載マイコン向けのRISC-Vの開発に貢献していく方針である。
既にインフィニオンは、Quintaurisと自社独自の活動に基づき、RISC-Vを採用した車載マイコンの仮想プロトタイプ(VP:Virtual Prototype)環境を提供できる準備を2024年末までに整えた。これまでインフィニオンはAURIXのVP環境は独自に提供してきたが、車載RISC-VのVP環境については、シノプシスの「ARC-V」をベースとするRISC-Vコアと、インフィニオンが提供する低レベルドライバ(iLLD)などをセットにしたSDK(ソフトウェア開発キット)を提供する。このVP環境は、早期アクセスによって提供されており既に利用可能な状態になっている。
今後は、2025〜2026年にかけてサードパーティーが提供するAUTOSAR準拠のミドルウェアやリアルタイムOS(RTOS)を追加してソフトウェア開発を可能な状況を創り出し、2027年以降は市場需要に合わせてエコシステムを拡張して量産車への実装に対応していく方針である。
カッソル氏は「車載マイコンへのRISC-Vの採用はあくまでポートフォリオの拡張であり、TriCoreやArmを置き換えていくことにはならない。AURIXやTRAVEOといった現行製品は2045年まで量産を求める強い引き合いがあるからだ。その一方で、SDVに対応するには車載プロセッサにより柔軟性が求められる。だからこそ、柔軟性に富むとともにオープンソースであるRISC-Vによってそれらのニーズに応えていく準備を進める」と述べている。
なお、現行のRISC-Vの需要は中国市場が中心だ。カッソル氏に、今回の車載マイコンへのRISC-V採用は、インフィニオンが現時点でトップシェアを握る中国市場への対応を意識した施策かを聞いたところ「中国市場向けの取り組みではない。SDVをはじめとする新たな市場需要に対応するためだ」と回答した。
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