世界シェアトップの測長SEMをDigital&Cleanで生産、日立ハイテクのマリンサイト:スマート工場最前線(2/2 ページ)
日立ハイテクは世界シェア70%の測長SEMに代表される半導体検査装置を新拠点の「マリンサイト」を開設した。マリンサイトは「Digital&Clean」のコンセプトの下で自動化やグリーン化を進めている。
6日間連続の無人調整はどうやって実現したのか
最新工場であるマリンサイトのコンセプトは「Digital&Clean」だ。
Digitalでは、工場内の自動化を大幅に進めることで人手作業の効率化を図るとともにさまざまな情報をデジタル化することで品質のバラつきの抑制につなげている。一方のCleanでは、微細な半導体の製造に用いられる測長SEMに必須のクリーンさと環境対応で重視されるグリーンエネルギーの利用を両立した「究極のクリーン&グリーン」(矢野氏)を目指している。製造棟の屋上には、出力1036kWの太陽光発電パネルを設置している他、地熱利用による高効率運転の空調、設計棟における自然換気や自然採光の採用に加えて、100%再生可能エネルギーで導入により拠点としてのCO2排出ゼロを立ち上げの段階から実現している。
工場内の自動化はさまざまな工程で導入されている。部品の着荷/仕分けでは、自動ラック倉庫を用いて生産計画に応じたスムーズな払い出しと空間を利用した合理的な部品保管を実現している。部品運搬もAGV(無人搬送車)を用いており、ムダ作業の排除やジャストインタイム供給だけでなく作業のクリーン化にもつなげている。
自動化を大幅に取り入れてはいるものの、半導体の微細化を支える測長SEMの組み立てでは熟練技術者の手作業が必要な工程も残されている。ただしそのような工程でも、数十kgの重量物の組み付けをアシストする空圧式ロボットを導入するなどして、人手作業の負荷を軽減できるような工夫を取り入れている。
測長SEMなどの半導体検査装置で最も重要なのが、装置としての組み立てが完了した後の調整と検査の工程だ。顧客の求める仕様に応じた性能をきちんと引き出せるように、電源をつなげて24時間稼働しながら調整を行う必要がある。さらにこの調整の工程では、レファレンスの回路パターンを持つ試料ウエハーを適宜差し替えながら行わなければならない。従来は、これらの調整作業に技術者が人手で対応しなければならなかった。
マリンサイトでは、合計70ピットで行われている調整の進捗をリモート室からまとめて遠隔で監視できるようになっている。また、調整作業全体の95%を自動化することで、1人の技術者が複数のピットを監視できるようにした。一方、試料ウエハーの差し替えについては、試料ウエハーを入れたFOUP(ウエハーのキャリアケース)の運搬と調整対象の装置への移載作業を自動で行うアームロボット搭載AGVを新たに導入することで無人化を実現した。オムロンとの共同開発で、LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)やSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)、アームロボットのカメラセンサーなどさまざまな技術を組み合わせて実現した。これらの取り組みによって、24時間稼働で6日間連続の無人調整が可能になったという。
矢野氏は「工場のDigital&Cleanというコンセプトのひな型はある程度出来上がったと考えており、これからは完成度をさらに高めていく段階にある」と述べる。なお、エッチング装置の拠点である笠戸地区は、2025年度の生産開始に向けて新製造棟を建設中であり、マリンサイトで得られた成果は笠戸地区にも展開していく方針である。
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