手作り試作部品と量産部品の作り方を知る【前編】:ODMを活用した製品化で失敗しないためには(9)(2/2 ページ)
社内に設計者がいないスタートアップや部品メーカーなどがオリジナル製品の製品化を目指す際、ODM(設計製造委託)を行うケースがみられる。だが、製造業の仕組みを理解していないと、ODMを活用した製品化はうまくいかない。連載「ODMを活用した製品化で失敗しないためには」では、ODMによる製品化のポイントを詳しく解説する。第9回のテーマは「手作り試作部品と量産部品の作り方」だ。まずは、試作設計における手作り試作部品の作り方を取り上げる。
板金の手作り試作部品の作り方
板金の手作り試作部品は、タレットパンチプレス/レーザー加工機+ベンディングマシンという装置で作製する。
一定の大きさの板金を、タレットパンチプレスもしくはレーザー加工機で部品の展開形状に切断し、その後にベンディングマシンで曲げる。さらにその後、部品によっては溶接による板金同士の接合や、ナットの圧入など別部品の取り付けを行う。
板金の手作り試作部品の特徴は、形状的にも物性的にも量産部品とほぼ同じであることだ。検証における試験では、量産部品と同等の結果が得られる。つまり、手作り試作部品が量産部品にもなり得るのだ。よって、板金の量産部品は生産数が少なければ、金型は作らず手作り試作部品の作製方法で生産する。その代わり、部品コストは金型で作製する部品よりも高くなる。
金属の手作り試作部品の作り方
金属部品とは、エンジン部品に代表される金属の塊のような部品である。手作り試作部品の作り方には、次の2通りがある。
- 角材の切削
- 金属3Dプリンタ
金属の角材をマシニングセンタで切削する。金属の部品は、強度や精度が必要な場合に用いられる。金型で鋳造した部品であっても、鋳造後に精度が必要な箇所は切削加工する。また、たとえ精度が必要でない部品であっても、鋳造直後はバリを切削加工で取り除く。つまり、金型で鋳造した量産部品であっても切削加工は必要で、部品コストは高いのだ。よって、そもそも切削加工する箇所がたくさんある部品は、金型を作らず角材を切削加工して量産部品にする場合が多い。ただし、材質は切削用と鋳造用で若干異なる。
金属3Dプリンタで金属部品を作製するのは最近のトレンドであるが、表面がザラザラしているため、精度が必要な箇所は切削加工をしなければならない。また、造形可能な部品の大きさは一般的には30cm程度であり、大きな部品の作製には適さない。よって、現在のところ、角材の切削との比較は容易にできないため、見積コストで比べるのがよい。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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