長寿命の高性能光電陰極を簡便に作製できる新手法を開発:研究開発の最前線
名古屋大学は、加速器などに用いられる高性能な光電陰極の新しい製造手法を開発した。従来法よりも簡便で、作製した光電陰極は酸素に対する耐久性が高く、表面から内部まで均質な組成比が得られる。
名古屋大学は2025年2月25日、加速器などに用いられる高性能な光電陰極の新しい製造手法を開発したと発表した。高エネルギー加速器研究機構、日本大学、あいちシンクロトロン光センター、アメリカのロスアラモス国立研究所との国際共同研究チームによる成果だ。
光電陰極物質のカリウム(K)、セシウム(Cs)、アンチモン(Sb)を基板上に成膜したK2CsSb光電陰極の性能は、基板表面の清浄度や粗さ、表面配向に大きく影響を受ける。しかし、これまで化学量論的に均質なK2CsSb光電陰極を成膜する方法は確立されていなかった。
研究グループは、グラフェンコーティングした基板を超高真空中で加熱(1時間、500℃)し、表面を清浄化した後、Cs、K、Sbを蒸着してK−Cs−Sb光電陰極を作製した。今回開発した「適正K蒸着法」では、SbとCsの蒸着条件は従来手法と同じだが、Kを量子効率(QE)が完全に低下するまで蒸着する。
適正K蒸着法で作製した光電陰極のサンプルを超高真空状態で輸送し、X線光電子分光で分析したところ、従来の蒸着法よりも酸素に対する耐久性が高く、表面から内部まで均質な組成比であることが確認できた。また、放射光を用いて構造などを詳細に観測、分析可能になったことで、光電陰極の性能に影響を与える組成への理解も深められる。
適正K蒸着法による成膜は従来法と比べて簡便で、成膜した光電陰極の性能も高いことから、長寿命の高性能光電陰極を容易に活用できるようになる。加速器や電子顕微鏡への応用が期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
界面活性剤を溶かさず活用し、多様なアモルファスナノシートの合成に成功
名古屋大学未来材料・システム研究所は、通常は溶かして使う界面活性剤を金属イオンと共に固体の結晶で析出し、鋳型として使用することで、厚さ1nm程度のアモルファスナノシートの合成に成功した。AIを活用したセラミック製品の高精度解析手法を共同開発、解析期間を10分の1に
日本ガイシ、名古屋大学、アイクリスタルは、人工知能(AI)を用いたセラミック製品の高精度解析手法を共同開発し、この手法を用いて製品特性の解析期間を短縮できる技術を確立した。名古屋大がAPI策定のオープンSDVイニシアチブを設立、スズキなど参加
名古屋大学はソフトウェアデファインドビークルのAPIを策定する「Open SDV Initiative」を設立した。骨格内部の結合開裂により8の字型骨格のキラルπ共役分子を合成
名古屋大学は、8の字型にねじれた構造を持つキラルπ共役分子の新しい合成法を開発した。平面π共役分子の骨格内部の結合を切ることで、市販の原料から高収率かつ大スケールで合成できる。炭素原子のベルト状分子の水溶化に成功、哺乳類細胞内への導入挙動を発見
理化学研究所と名古屋大学は、炭素原子のベルト状芳香族分子であるナノベルトの水溶化に成功した。合成したナノベルトを用いてバイオイメージングを実施し、分子ナノカーボンの細胞導入挙動も明らかにした。