いまさら聞けないCC-Link IE TSN入門(後編):産業用ネットワーク技術解説(3/3 ページ)
本連載では「CC-Link IE TSN」に代表される「CC-Linkファミリー」ネットワーク技術の特長と、それによって実現できるモノづくりの未来について、前後編の2回にわたって分かりやすく説明します。後編では、CC-Link IE TSNの特長と今後の展望について紹介します。
FA(OT)とITの融合とセキュリティの両立
CC-Link IE TSNはFA(製造現場:OT)とITシステムをシームレスに連携し、製造業における多彩なアプリケーションの活用を可能にします。
その一方で、この相互接続により従来FAで閉じていたネットワークに対して外部からの侵入経路が増え、セキュリティリスクが高まるため、FAとITの融合とセキュリティ対策は両輪で進める必要があります。
このFAに押し寄せてくるセキュリティの脅威に対して安心してご使用いただける環境の構築を目指し、CLPAはパートナーメーカーと「セキュリティワーキング(WG)」を発足しました。
CC-Link IE TSNを使用したFAシステムにおけるセキュリティ対策の指針となるガイドラインの作成、セキュリティ製品の推奨品認定に向けた試験仕様の策定と試験体制の構築など、CC-Link IE TSNを安心してご使用いただくための情報提供、サービスの拡充を行っていきます。欧州や中国などのセキュリティ関連の法規制強化の対応も検討を進めていきます。
多様な開発手法による対応製品の拡充
CC-Link IE TSNは、ハードウェア実装のみならず、ソフトウェアでも実装可能です。専用ASICやFPGAでの実装に加え、汎用イーサネットチップへのソフトウェアのプロトコルスタックの実装をマネージャ局、デバイス局ともに適用できます。通信速度も100Mbps、1Gbpsに対応できます。
ベンダーは最適な開発手法でCC-Link IE TSN対応機器を開発できます。このことは対応機器の充実化という形でユーザーにも効果をもたらします。専用通信LSI、組み込みモジュール、PCボード、ソフトウェア開発キット(SDK)など開発手法のさらなる充実化を推進していきます。
コンパクトなリモート局用のサンプルコードもご用意しており、既にイーサネットに対応している機器やCC-Link IEフィールドネットワークBasic対応機器であれば、ソフトウェア変更のみでCC-Link IE TSN対応製品を開発できます。
CC-Link IE TSNが拓く未来
2018年11月、「SPS IPC Drives 2018」(ドイツ・ニュルンベルク) にて、多くの賛同企業と共同でCC-Link IE TSNの仕様を発表。2019年には100製品以上が一度にリリースされ、市場に浸透していきました。
2025年現在では対応製品は400製品を超え、多くのユーザーに採用されています。採用されている業種は、半導体製造装置や自動車製造、その中でも特にEV(電気自動車)製造やリチウムイオン電池製造などの最先端工場での採用が目立ちます。
その他、電気電子部品、工作機械、搬送機械、タイヤ製造、日用品製造、家電製造、飲料・食品包装などの幅広い分野で、グローバルに採用が進んでいます。
今後は、従来の産業用ネットワークの範囲を超えて、鉄道、ロボティクス、医療、農業などに適用が拡がっていくことを期待しています。また技術的な広がりとしては、無線対応、セキュリティ対応などへ適用拡大を目指してCLPAパートナーと連携し、CLPA内にワーキンググループを設置して活動しています。無線対応としてはWi-Fi機器による制御通信、安全通信の仕様が既に確立しています。
さらに、より一層の高速性を目指し、5Gなどの通信技術への対応を継続的に検討していきます。セキュリティ対応としては、ガイドラインを作成して展開しており、セキュリティ製品がCC-Link IE TSNネットワークシステム内で正常に動作するか検証して認証する仕組みの確立に向けた取り組みを推進しています。また、中国や欧州を中心としたセキュリティ関連の法規制強化への対応を推進していきます。
これからも、市場要求に応じた進化をしながら新しい付加価値を創造し、時代を切り開いていくべく、CC-Link IE TSNの普及・拡大を推進していきます。
一般社団法人 CC-Link協会
CC-Link協会は日本・アジア初&発の産業用オープンネットワークの推進団体として2000年11月に設立され、2025年に25周年を迎えます。「CC-Linkファミリー」のグローバルレベルの普及活動と技術開発を推進するため、CLPAパートナーと一体となった活動で相互運用性の確保や技術サポートを行い、産業界のニーズに応えるソリューションを提供しています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
いまさら聞けないCC-Link IE TSN入門(前編)
本連載では「CC-Link IE TSN」に代表される「CC-Linkファミリー」ネットワーク技術の特長と、それによって実現できるモノづくりの未来について、前後編の2回にわたって分かりやすく説明します。前編では、CC-Linkファミリーのこれまでの歩みや、CC-Link IE TSNにおいて採用したTSN技術について紹介します。TSN対応のCC-Linkが登場へ、時分割で異種環境差を吸収しスマート工場化を加速
CC-Link協会は2018年11月21日、「CC-Link IE」の次世代を担うネットワーク規格として「CC-Link IE TSN」の仕様策定が完了したことを発表した。時分割により異なるネットワークプロトコルでも混在が可能な他、タイムスタンプを自動で付与するため、データ分析などスマート工場化を加速させる方針である。TSNがなぜ産業用ネットワークで注目されているのか
産業用ネットワークで今大きな注目を集めているのが「TSN」という規格です。なぜTSNがここまで注目されているのでしょうか。本稿では前後編に分けて「なぜこれほど注目を集めだしたのか」「どのように使われることが期待をされているのか」について紹介していきます。TSNを構成する「時刻同期」と「時分割」とは
産業用ネットワークで今大きな注目を集めているのが「TSN」という規格です。本稿では前後編に分けて「TSN」とは何かについて紹介しています。後編ではTSNを構成する規格とその機能について紹介します。いまさら聞けない EtherCAT入門
産業用オープンネットワーク「EtherCAT(イーサキャット)」をご存じだろうか。工場などの産業用オートメーションにおいて、フィールドネットワークのオープン化が進む中、なぜEtherCATの存在感が増しているのか。誕生背景やメカニズム、活用シーンなどを詳しく解説し、その秘密に迫る。いまさら聞けないPROFINET入門
イーサネットベースの産業用ネットワークである「PROFINET(プロフィネット)」をご存じでしょうか。工場の高度化が進む中、工場ネットワークのオープン化は加速しており、オープンネットワークであるPROFINETの利用範囲は拡大を続けています。本稿では、PROFINETとは何かを分かりやすく解説し、その強みに迫ります。