設備保全管理をCBMで強化する、PLCデータの収集で設備稼働監視も実現:あらためて取り組む中小製造業のIoT活用(4)(2/2 ページ)
本連載では、あらためて中小製造業がIoT導入を進められるように、成功事例を基に実践的な手順を紹介していく。第4回は設備保全管理の強化をテーマに、金型治工具の使用状況の可視化とメンテンナンス精度の向上を図る手順と管理のポイントを中心に説明し、PLCデータの収集による設備稼働監視や予兆管理についても解説する。
3.金型治工具使用時のポカヨケ
対策2の具体的な実施手順について説明します。
(1)生産品目と使用する金型治工具のマスタの設定
生産品目と使用する金型治工具のマスタ情報を登録します。
品番、短縮番号、金型治工具No.
(2)金型治工具使用時に誤使用チェックを実施
金型治工具を設備にセットする前に金型治工具のコードをバーコードリーダーで読み込み生産品目に対し正しいか誤使用チェックを行います。
4.設備稼働監視
対策3の具体的な実施手順について説明します。
(1)PLCからLAN経由でのソケット通信
ここでは、PLCのアドレスのデータをLAN経由で収集する方法について説明します。
まず、PLCにLANの接続ユニットがある場合はLANケーブルを使ってPCと接続をします。PLCのアドレスにデータが格納されている場合、そのアドレスのデータをソケット通信の方式を使用して、Python言語で記述したプログラムでcsv形式のデータに出力します。今回は、三菱電機のPLCでD1000〜D1010のデータレジスタに格納された運転信号と生産数の情報を通信する例を記述しています(図2)。
ソケット通信のプログラム記述例を見ますと、まずPC側からPLC側にデータ読み出しのリクエストを送信しています(図3)。それをPLC側が受け取ると、次にPLCのアドレスのデータがPC側に返ってきます。
データ読み出しのリクエストについては、図4のリクエストデータの記述例を参照して下さい。
まず「サブヘッダ」「PC番号」を固定で記述します。次に「監視タイマ」でPLCの処理待ち時間を設定しますが、ここでは2.5秒の設定例になっています。推奨設定は0.25秒〜10秒です。そして、「先頭デバイス番号」「デバイスコード」「デバイス点数」「終了コード」で、取得したいデータの先頭アドレスとアドレスの点数を記述します。ここではD1000からD1010の11点のアドレスのデータを要求しています。
ここからは図5の受信データの記述例を参照して下さい。
データの欄にリクエストしたデータが入って受信できます。11点のデータをリクエストしていますので、11個のデータが返ってきます。このような方法で、設備のショット数、正常稼働、異常停止の情報を収集することも可能です。
(2)設備の信号灯情報の表示
(1)で収集した設備に設置されている信号灯の内容を、一括表示画面で表示します(図6)。そうすることで、現場からの異常停止の連絡を受けなくても保全担当者が現場に駆け付けて迅速に対処することや、前後の工程が異常停止した内容を見て生産の遅れや進みに対して柔軟に対処することが可能となります。
5.予兆管理
予兆管理は、設備の摺動部や駆動部の振動、電気系統の状況などをセンシングし、異常波形によって障害発生を予知して長期停止(ドカ停)を防止する方法となります(図7)。
設備保全管理は、最後の予兆管理が最新技術として着目されており、設備保全管理=予兆管理と言われてきました。しかし、収集したデータによるAI(人工知能)の学習にコストと時間がかかるため実現のハードルは高いです。
そこで今回は、手軽に設備保全管理のデジタル化による効果を出しやすい部分を中心に説明しました。まずは実践して、効果を出しながらあるべき姿にステップアップしていきましょう。(次回に続く)
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筆者紹介
株式会社アムイ 代表取締役
山田 浩貢(やまだ ひろつぐ)
NTTデータ東海にて1990年代前半より製造業における生産管理パッケージシステムの企画開発・ユーザー適用および大手自動車部品メーカーを中心とした生産系業務改革、
原価企画・原価管理システム構築のプロジェクトマネージメントに従事。2013年に株式会社アムイを設立し大手から中堅中小製造業の業務改革、業務改善に伴うIT推進コンサルティングを手掛けている。「現場目線でのものづくり強化と経営効率向上にITを生かす」活動を展開中。
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