会社の将来を担うSCM人材にはどんな能力が必要で、どう育てていけばいいのか:新時代のサプライチェーンマネジメント戦略(4)(2/2 ページ)
さまざまな企業課題に対応すべく、サプライチェーンマネジメント(SCM)のカバー領域や求められる機能も変化している。本連載では、経営の意思を反映したSCMを実現する大方針たる「SCM戦略」と、それを企画/推進する「SCM戦略組織」、これらを支える「SCM人材」の要件とその育成の在り方を提案する。
SCM人材育成の具体的方法
これまでSCM人材は主に実務経験を通じて業務ノウハウを獲得してきた。SCM人材育成が「現場に丸投げ」されてきたと言い換えてもよいだろう。しかし、前述の通りSCM人材に求められる知見が幅広く、深くなってきた今日においては、企業として体系的な人材育成施策を展開する必要がある。
その背骨はSCMに関わる「クロスファンクショナルOJT(On-the-Job Training)」だ。SCMや製造、営業、財務など、関連部門を計画的にローテーションさせることで、全体最適の視点を養成する。各部門の課題や制約を理解し、バランスの取れた意思決定ができる人材の育成が狙いだ。あるヘルスケア企業では、SCM組織をハブに各専門部門(製造/販売/IT)のメンバーをローテーションさせることで、幅広い業務知識を持ったSCM人材の育成を行っている。この枠組みはSCM人材のみならず、将来のマネジメント候補を育成するための“社内留学先”としても活用されているという(図2)。
次に、SCMに関わる体系的な教育プログラムを充実させる必要がある。SCM未経験者がイチからSCMを学ぶケースもあるが、それよりも、SCM経験のある社員の断片的な知識や経験を、こうした教育プログラムの受講や資格取得を通じて構造的に整理しなおし、社内で共有可能にすることにこそ意味がある。SCM先進企業はこうした価値を理解し積極的に人材育成に活用している。
日本を代表するビジネススクールである早稲田大学ビジネススクール(WBS)は、さまざまなエグゼクティブ教育課程の1つとして、次世代のSCM中核人材育成を狙った講座を開設している。多くの企業がSCMの次世代リーダー候補に受講させているという。
また、SCMに関わる教育と資格認定を専門とする米国の「サプライチェーンマネジメント協会(ASCM)」が認定する国際資格CPIM(生産在庫管理認定資格)やCSCP(サプライチェーンプロフェッショナル認定資格)などの外部資格取得を推奨している企業も存在する。
最後に、SCM人材が自社で生き生きと働ける環境づくりも重要だ。私たちがよく耳にするのが、SCM人材の役員ポストがなく、現在のポジション以上への昇格機会がないため、せっかく育った人材が他社に転身するケースだ。グローバル企業では「CSCO(Chief Supply Chain Officer)」の配置は一般的だが、日本企業ではまだまだレアケースだ。
高度SCM人材はニーズに対して候補者が不足しており、一度去った人材の代替を探すのは容易ではない。日本企業においても、「SCM戦略組織(コーポレートのSCM組織)」を統括し、全社〜事業横断でSCMの在り方をコントロールする役員(CSCO)を配置することが、SCM人材全体の活性化はもちろん、SCM組織整備の観点でも望ましい。
まとめ
次世代のSCM人材の育成は、企業の競争力を強化するために不可欠である。データ分析能力、グローバルな視点、コミュニケーション能力といった要件を満たす人材を育成するためには、教育プログラムの充実、OJTの活用、継続的な学習とスキルアップが重要である。これらの取り組みを通じて、企業は効率的かつ効果的なサプライチェーンを構築し、持続可能な成長を実現することができる。
本連載を通じて、SCM戦略の重要性、SCM組織の役割、そして次世代のSCM人材の要件と育成方法について詳述してきた。一連の提案を参考にすることでSCM領域において「変化への対応力」を十分に担保し、持続可能な競争優位を築くことができると考える。<連載完>
筆者紹介
多田和弘(ただ かずひろ)
株式会社クニエ SCM/S&OP担当 ディレクター
大手鉄鋼メーカー、外資系ERPベンダー、国内コンサルティングファームを経てクニエに入社。製造業のグローバルサプライチェーン構築、SCM業務プロセス改革、およびSCMに関わるESG課題対応(サプライチェーン人権管理/GHG管理/サプライチェーン途絶リスク)など多数のコンサルティング実績を有する。
書籍「ダイナミック・サプライチェーン・マネジメント 〜レジリエンスとサステナビリティーを実現する新時代のSCM〜」(日経BP社)監修/共著メンバー。
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