“使える”シミュレーションとAIはマテリアルズインフォマティクスをどう変える?:MONOist 2025年展望(3/3 ページ)
2024年もさまざまな取り組みが進められたマテリアルズインフォマティクス。それらを振り返りながら、2025年以降にマテリアルズインフォマティクスのさらなる浸透と拡大で重要な役割を果たすであろうAI活用やその成果について考察する。
生成AIは材料の新規用途探索や研究内容の要約で活躍
MIで生成AIは対象材料の新規用途探索や製造現場の技術伝承、日々の研究と実験の内容をまとめた日報の要約などで活用されている。
旭化成では材料の新規用途探索や製造現場の技術伝承で生成AIの活用を開始している。同社は、専門の人材と各事業領域の連携により用途を自動抽出するAIと、その中から特に有望な用途候補を抽出する生成AIを開発した。これらのAIを用いて、既に膨大な文献データから6000以上の用途候補を考案した他、ある材料では用途候補の選別にかかる時間を従来の約40%に短縮できた。
加えて、従来は個人の経験を基に製造現場における作業のリスクを予知していたが、過去事例のデータを読み込ませた生成AIを活用することで、経験の浅い従業員でも抜け漏れなくリスクと対応策を洗い出し、安全性と効率性を高めるとともに、技術伝承を加速できるようになった。
2025年もこれらの用途で生成AIを活用する企業が増加すると考えられる。ただ、開発中の素材に関する研究や実験の内容を生成AIに読み込ませて要約や翻訳などを行う際には情報漏えいへの対策が必要な他、AIが事実に基づかない情報を生成する現象「ハルシネーション」への対応も必要になるとみている。
また、AIを用いてシミュレーションの精度を高める取り組みも増加すると考えられる。既にレゾナックは、材料開発のためのシミュレーションとして一般的に用いられる計算手法「第一原理計算」とAIを融合した新しいシミュレーション技術「ニューラルネットワークポテンシャル(NNP)技術」を2024年に開発している。
このNNP技術を用いれば、第一原理計算から得られる数千万件にも及ぶ膨大なデータをAIに機械学習させて、第一原理計算に匹敵する高い精度で、大規模なシミュレーションができるようになる。その計算速度は、第一原理計算で1000年以上かかるものを、100時間で実施できる。
同社はCMPスラリーによる半導体基板の研磨工程のシミュレーションを実施するため、最先端のNNP技術を用いた。その結果、nmスケールで複雑な界面の挙動を精密に可視化することで、実験だけでは捉えにくい複雑な研磨メカニズムを詳しく理解することができた。
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