“使える”シミュレーションとAIはマテリアルズインフォマティクスをどう変える?:MONOist 2025年展望(2/3 ページ)
2024年もさまざまな取り組みが進められたマテリアルズインフォマティクス。それらを振り返りながら、2025年以降にマテリアルズインフォマティクスのさらなる浸透と拡大で重要な役割を果たすであろうAI活用やその成果について考察する。
MIにおけるAI活用の今後
MIでAIは求める材料の特性値を満たす物性の算出や最適な組成の探索などで利用されている。AIにより材料の特性値を満たす物性を算出した事例としてまず積水化学工業のケースを紹介する。
積水化学工業ではMI適用以前は、ベテランの素材開発者が30万種類を超える材料とプロセス(配合の方法、温度など)の組み合わせの中からパターンを絞った上で検討を行うため、フィルム製品の配合設計に5カ月かかっていた。そこで、フィルム配合設計にAIの機械学習を適用し、材料とプロセスの組み合わせデータから、その組み合わせで創出される13種類の物性を予測するというMIを行った。これによりフィルム配合設計の時間を4時間に短縮した。
さらに、電子材料用テープの接着剤開発でもAIにより作業の効率化を実現している。MI適用以前は、化合物合成→物性計測→選別を繰り返し、新規接着成分の探索時間が1カ月かかっていた。解決策として、配合設計にAIの機械学習を適用し、化学構造から直接物性を予測するというMIを行い、新規接着成分の探索時間を16時間に短縮した。
一方、レゾナックでは線幅と配線間隔が1.5μmの銅回路を形成できる感光性フィルムを開発するためにJMPの統合解析ソフト「JMP」とこのソフトに搭載されたAIを活用した樹脂設計を行った。
まずポリマー樹脂の主要特性に影響を与えるパラメーターを列挙した。次に、JMPとAIを用いて、3780通りの共重合成分から10種類の樹脂を合成し、合成した樹脂のパラメーターの検証を2回実施。続いて、検証によって有効性を確認したパラメーターと化学構造データベースから、ポリマー樹脂として有望な候補10種類を合成し、その性能を検証した。
これらの取り組みによりポリマー樹脂の設計モデルを作成。この設計モデルで導き出した、解像度特性が高い樹脂候補の12種を6μmのレジスト薄膜で検証し、感光性フィルムで使用する樹脂を選定した。その後、統計解析技術によりフィルムの組成を決めた。
一般的に材料開発向けのAIはプログラミング言語「Python」を用いて作成されるケースが多いが、レゾナックのこの取り組みではノーコードで使えるJMPに搭載されたAIを利用している。
レゾナック 計算情報科学研究センター 情報・インフォマティクスグループの南拓也氏は、「統計解析ソフトとしてJMPを採用した決め手はプログラミングができない社員にも材料開発でMIやAIを使ってもらうためだ」と話す。さらに、社内で材料の開発と研究に携わる社員を対象に、計算情報科学研究センターがJMPの説明会や研修、利用のサポートを行っている。その結果、2023年時点でJMPのライセンス保有者は1000人を超えている。
この事例のように2025年もノーコードで使えるソフトやシステム、アプリケーションを介して材料開発向けのAIを活用するケースが増えると考えられる。
MIでAIを活用する際には素材開発の担当者とITの担当者が協力するケースがあるが、互いに専門の知識が異なるため意思疎通が難しくスムーズに素材開発が行えないことが多い。解決策として積水化学工業などでは、素材開発の担当者にITに関する教育を行い、素材を評価/分析したデータをスムーズに理解でき、関連部署とのコミュニケーションとさまざまな情報の連携を迅速に進められる人材を育成している。
ただ、Pythonなどのプログラミング言語を用いたAIの構築で必要な知識を教育するのには時間がかかる。そのため、取っ掛かりとしてノーコードで使えるソフトやシステムなどを通して材料開発向けのAIを活用する企業が増加するとみている。レゾナックの南氏は「材料開発の担当者にはまずノーコードで使えるJMPで材料開発向けのAIに触れてもらう。次のステップとしてPythonなどで対象の材料に適したAI開発にチャレンジしてほしい」と述べている。
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