第一原理計算とAI技術を融合、半導体材料のシミュレーションを10万倍以上の速度に:材料技術
レゾナックは、第一原理計算と、人工知能(AI)を融合した新しいシミュレーション技術「ニューラルネットワークポテンシャル(NNP)技術」を、CMPスラリーによる半導体回路の研磨メカニズムのシミュレーションに初めて導入し、同メカニズムを解明した。
レゾナックは2024年8月6日、材料開発のためのシミュレーションとして一般的に用いられる計算手法「第一原理計算」と、人工知能(AI)を融合した新しいシミュレーション技術「ニューラルネットワークポテンシャル(NNP)技術」を、CMPスラリーによる半導体回路の研磨メカニズムのシミュレーションに初めて導入し、同メカニズムを解明したと発表した。
NNP技術は、これまで難しかった化学反応のシミュレーションを、第一原理計算と同程度の精度を維持しながら、10万倍以上の速度で実施できる技術だ。同社は、今回の技術により複雑な半導体製造プロセスで起きている材料の挙動を解明し、迅速な新材料の創出につなげる。
第一原理計算で1000年以上かかるものを100時間で
昨今、半導体分野では、技術革新のスピードが加速しており、迅速に新材料を提供することが求められている。この解決策として、シミュレーションにより見当をつけて実験することで、効率的に研究開発し、新材料の創出を加速する取り組みが行われている。
しかし、半導体製造プロセスの場合は、無機物、金属、有機物など異なる性質を持つ材料との界面における相互作用を計算する必要がある。こういった場合には、第一原理計算を使うのが一般的だが、同計算手法は、精度の高い計算結果を出せる一方、計算に多くの時間と計算能力が必要となるため、複雑な化学反応や、圧力など周囲の環境を考慮したメカニズムのシミュレーションは困難だ。
加えて、解析できる化学反応の時間も限られていることから、半導体材料分野には適していなかった。中でも、半導体製造に重要なCMPスラリーによる半導体基板の研磨工程に対しては、添加剤や研磨剤など多くの分子/原子が存在する上、基板の複雑な形状を細かくコントロールする必要があり、時間的にも空間的にも大規模なシミュレーションが必要だった。
そこで、同社は、数年前からAI半導体と呼ばれるGraphical Processing Unit(GPU)を用いることで、AIの性能を飛躍的に高めたNNP技術を、半導体材料開発へ導入する検討を行ってきた。
このNNP技術を用いれば、第一原理計算から得られる数千万件にも及ぶ膨大なデータをAIに機械学習させて、第一原理計算に匹敵する高い精度で、大規模なシミュレーションができるようになる。その計算速度は、第一原理計算で1000年以上かかるものを、100時間で実施できる。
今回同社は、CMPスラリーによる半導体基板の研磨工程のシミュレーションを実施するため、最先端のNNP技術を用いた。その結果、nmスケールで複雑な界面の挙動を精密に可視化することで、実験だけでは捉えにくい複雑な研磨メカニズムを詳しく理解することができた。
さらに、今回の技術を活用することで、基板形状や加工条件など、周囲の環境の影響を含む詳細なプロセスが明らかになり、より確度高く、求める機能を出す原料候補を見つけられるようになる。その結果、新材料の開発期間が短縮できる。
なお、NNP技術は、界面や異種混合などの複雑な解析に有効であり、同社ではCMPスラリー以外の半導体材料分野でも適用している。
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