中国で急成長するEREVはグローバル自動車市場の“本命”になり得るか:和田憲一郎の電動化新時代!(54)(3/3 ページ)
EVシフトが著しい中国で急激に販売を伸ばしているのがレンジエクステンダーを搭載するEREV(Extended Range Electric Vehicle)である。なぜ今、BEVが普及する中国の自動車市場でEREVが急成長しているのだろうか。さらには、中国のみならず、グローバル自動車市場の“本命”になり得るのだろうか。
EREVに対する環境規制は
このように急速に販売台数を伸ばしているEREVだが、各国の環境規制に対してどのような位置付けになっているのだろうか。
米国では、CARB(米国カリフォルニア州大気資源局)が定めるZEV(ゼロエミッション車)規制「Advanced Clean Cars II」がある。これはカリフォルニア州で販売する乗用車およびライトトラックに対して、ZEV対象車の販売比率を2026年の35%から2035年には100%まで高めることを義務付ける規制である。なお、ZEV対象車とは、BEV、PHEVおよびFCEV(燃料電池車)である。EREVはPHEVの中に含まれているが、PHEVの比率はZEV全体の20%以下という縛りがある。このため、EREVはZEV規制に対して有効であるものの、それだけでは十分ではなくBEVやFCEVの販売が必要となる。
欧州では2035年に内燃機関車の新車販売を禁止する「Fit for 55 Package」の包括案がある。2023年2月、EU(欧州連合)加盟国は、2035年に内燃機関搭載車の新車販売を禁止する法案に最終合意した。この内燃機関の新車販売禁止法案にはPHEVも含まれるため、今後、見直しがあるのか注目すべきであろう。
日本では、政府による「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、「2035年までに、乗用車新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講じる」ことを掲げている。EREVはPHEVであり、“電動車100%”に入るのでこの成長戦略に包含される。
EREVの課題
EREVについては、以下のような課題があると思われる。
小型車両への適用の難しさ
大型車両には適しているものの、小型車両への適用は困難である。排気量1.5L相当のエンジンや容量60L前後の燃料タンクを搭載することは、バッテリーの大型化と相まって、レイアウトの制約を生じさせる。大型車両ではこれが可能であるが、小型車両の場合、エンジンや燃料タンクのダウンサイジングが必要となり、第1世代のEREVであるBMW i3と同様の課題が再び浮上する。
通常のPHEVとのすみ分けの難しさ
一般ユーザーにとって、大容量バッテリーを搭載したBEVは理解しやすいが、通常のPHEVと保険的な機能を持つEREVの違いは商品として分かりにくい。今後、EREVの自動車メーカーやバリエーションが増えてくるとなおさらであろう。このため、ユーザーはブランドや価格を基準に選択する傾向が強まると考えられる。
日本の自動車産業はEREVをどう考えるべきか
日本において、EREVへの関心はまだ低いのが現状である。BMW i3の例から、EREVはオワコンと考える人もいるかもしれない。しかし、中国におけるEVシフトの進展に伴い、EREVの需要が高まっていることに注目すべきである。この動きはまだ小規模かもしれないが、中国自動車メーカーだけでなく、欧米自動車メーカーもEREVの開発に着手しており、今後一定の規模に成長する可能性がある。
EVシフトの普及度合いは地域によって異なるが、海外市場に依存する割合が高い日本の自動車産業にとって、新たに出現したこのトレンドを無視することはできない。日本の自動車メーカーや自動車部品メーカーも、EREVの研究/開発に着手すべき時期に来ていると考えられる。特に、経営統合を目指すホンダと日産自動車は、重要な市場である中国で起きた新たなトレンドにどう対応していくのだろうか。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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