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EVシフトの伸び悩み期間「プラトー現象」を乗り越えるには和田憲一郎の電動化新時代!(50)(1/3 ページ)

2024年に入り、EVシフトに関して、ネガティブなニュースも数多く見られるようになってきた。ニュースに一喜一憂する訳ではないが、これまで急激なEVシフトに対して、やや揺り戻しが起きているのではと感じる。

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 2024年に入り、EV(電気自動車)シフトに関して、ネガティブなニュースも数多く見られるようになってきた。ニュースに一喜一憂する訳ではないが、これまで急激なEVシフトに対して、やや揺り戻しが起きているのではと感じる。ポジティブ、ネガティブな話題が混在する、ある意味拮抗(きっこう)している状態に対して、現在地をどのように見たらよいのだろうか。結論から言えば、EVシフトはプラトー現象に入っていると考える。

→連載「和田憲一郎の電動化新時代!」バックナンバー

2023年の実績や出来事

 2023年に世界で販売された新車のEV/PHEV(プラグインハイブリッド車)の台数は、直近の集計では、1360万台(前年比31%増)になったようだ。その内訳はEV950万台、PHEV410万台である。国際エネルギー機関(IEA)が「Global EV Outlook 2023」で、2023年は前年比35%増の1400万台、販売比率は18%になると予測した結果と極めて近い数値となっている。

 その中で、中国における2023年のEV/PHEV販売台数は950万台(前年比38%増)となり、新車販売に占める比率は32%に達している。また中国のEV/PHEV販売台数が全世界の約7割を占めることは特筆すべき事項だろう。しかし、2024年は販売が鈍化するネガティブニュースも報じられている。

 テスラは2023年第4四半期の決算で、値下げや需要喚起を狙った販売奨励策の影響で粗利益率が低下していると説明するとともに、2024年は販売台数の伸びが大きく減速する可能性があることに言及した。ゼネラル・モーターズ(GM)のCEOであるメアリー・バーラ氏は「EVの成長ペースが鈍化しているのは事実であり、それによってある程度の不確実性が生じている」と述べている。

 法規関係では、米国インフレ削減法(IRA)で、2024年1月1日から控除を受けられる車種が2023年の43モデルから19モデルに減少すると公表された。理由は2024年から重要鉱物および部品に対する適用割合がそれぞれ10%引き上げられたことだ。日系自動車メーカーで初めて控除対象になった日産自動車の「リーフ」も対象車種から外れた。

 欧州委員会は2023年10月4日、中国からEUに輸入されるEVについて、相殺関税の賦課を視野に入れた反補助金調査を開始した。今後、比亜迪(BYD)、吉利汽車、上海汽車集団の中国EV大手3社に調査員を派遣すると報じている。

プラトー現象とは

 さて、マーケティング理論では、プロダクトライフサイクルと呼ばれるものがある。「Product Life Cycle」の頭文字をとってPLCとも呼ばれる。つまり商品が市場に登場してから、衰退し姿を消すまでのサイクルを体系づけたものであり、「導入期」「成長期」「成熟期」「飽和期」「衰退期」の5つの段階に分かれる。

 ここで重要なことは、成長期から成熟期に至る段階で、普及率が10〜15%程度になると、売り上げが一時的に横ばいになることがあり、これは「プラトー現象」と呼ばれる。プラトーとは「高原」を意味する。プラトー現象は、多くの新商品でも見られ、特にこれまでにないジャンルの商品で起こりやすい。マーケティングのみならず、仕事やスポーツなどでも見られる。これまで努力して伸びてきたけれど、努力しても成長を感じられない状態のことである。

 さて、本題に戻ると、なぜこのようなことが生じるかといえば、新しさを求めるイノベーター層やアーリーアダプター層と、一般的な購入層であるアーリーマジョリティー層との間に起こるギャップ(キャズム:Chasm)があり、これを乗り越える間は一時的な停滞、つまり「プラトー現象」を引き起こしていると考えられる。今回のEVシフトに関しても、以前のコラム『EVは「普及期」へ、生き残りに向けた3つの方向性』で示したように、2024年には、ちょうどこの時期に差し掛かっているのだろう。

 では、プラトー現象をどのようにして乗り越えたらよいのだろうか。マーケティング上では、プラトー現象を乗り越えるために、アーリーアダプターが求める“新しさ”から、アーリーマジョリティーが求める“安全/安心”に比重を移すことが大切だといわれている。ここでは、プラトー現象からの浮上に向けて、既に決まっていることや考えるべきことを述べてみたい。


図1:プラトー現象とは[クリックで拡大] 出所:日本電動化研究所
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