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EVは「普及期」へ、生き残りに向けた3つの方向性和田憲一郎の電動化新時代!(48)(1/3 ページ)

2023年にEVとPHEVを合わせた販売比率が18%になると予測されている。マーケティング理論上はアーリーアダプターからアーリーマジョリティーの領域に入る。また、多くの環境規制では2035年が1つの目標となっている。では、このように急拡大するEVシフトに対し、日本の自動車部品産業はいま何を考えておくべきか。

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 風雲急を告げる、というのは今年(2023年)のことだろうか。この原稿を書いている最中、GM(General Motors)、フォードが急速充電器の仕様をこれまでのCCS規格(Combined Charging System)から、テスラが開発した北米充電標準規格(NACS:North American Charging Standard)に2024年から変更するというニュースが飛び込んできた。これで北米はNACS規格に一本化するのではないだろうか。CCSの普及を進めていた陣営は大打撃となるだろう。

 急速充電規格の話は本筋ではないが、それも今回の話と密接に関連している。2022年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が次第に収束し、半導体不足、ロシアによるウクライナ侵攻など激変の年だったが、それでも国際エネルギー機関(IEA)の「Global EV Outlook 2023」によれば、電気自動車(EV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)を合わせた新車販売台数は、1000万台を超え、販売比率は14%となった。IEAは、2023年に前年同期比35%増の1400万台、販売比率は18%になると予測している。

 これはマーケティング理論で考えると、アーリーアダプターからアーリーマジョリティーの領域に入るともいえる。EVシフトはもはや不可逆的となり、2023年は普及期に入るのではないだろうか。また後述するように、多くの環境規制で2035年が1つの目標となっている。このように急拡大するEVシフトに対し、日本の自動車部品産業はいま何を考えておくべきか。

→連載「和田憲一郎の電動化新時代!」バックナンバー

賽は投げられた、EV/PHEVはアーリーマジョリティーへ

 新商品の普及に関する「イノベーター理論」では、商品を手に取る時期が早い順にイノベーター(2.5%)、アーリーアダプター(13.5%)、アーリーマジョリティー(34%)、レイトマジョリティー(34%)、ラガード(16%)と分類される。以前から、EVはイノベーター層やアーリーアダプター層には受け入れられても、一般的な購入層であるアーリーマジョリティー層にはなかなか行かないのでは、といわれてきた。

 しかし、2023年には18%まで達しようとしているということは、2023年がアーリーマジョリティー層に突入することを意味する。つまりEV/PHEVが商品として市民権を獲得し、一気に普及モードに突入するクリティカルマスを超えたともいえる。

 これまで、経営コンサルタントのジェフリー・ムーア氏の著作などでは、EVシフトはアーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間にあるギャップ(キャズム:Chasm)を超えられないのでないかといわれてきた。しかし、EVシフトにキャズムは当てはまらないようだ。

 なぜこれが冒頭のGMやフォードの急速充電器規格の変更につながるか。両社ともこれまでは欧州主導のCCS規格を採用してきたが、本格的な普及期に入るに当たって、使い勝手や充電安定性、設置台数などを比較すると今のままでは不都合になると考えたからではないだろうか。つまり「変更するなら今だ」と。


図1:EV/PHEVはアーリーマジョリティーへ[クリックで拡大] 出所:日本電動化研究所

環境規制がe-Mobility化を促進

 EV/PHEVが大きく伸展している背景に、国や地域における環境規制強化が挙げられる。今回は米国と欧州で影響を及ぼしている主な規制について述べたい。

 まずは米国の規制だ。米国カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏が2020年9月、2035年に州内で販売される新型車を「ゼロエミッション車」を義務付けると発表したことに起因する。カリフォルニア州で言うゼロエミッション車(ZEV)とは、EV、PHEVおよび燃料電池車(FCEV)だ。その1年後の2022年8月、米カリフォルニア州大気資源局(CARB)は、2035年までに、同州で販売する乗用車およびライトトラックは、全てZEVにするという新たな規制「Advanced Clean Cars II」を発表した。

 米国カリフォルニア州のZEV規制では、これまでZEVの比率を2025年に全体の22%にすると決まっており、今後の方針は未定だったが、それが、「Advanced Clean Cars II」により、一気に2035年に100%まで引き上げることが定められた。必要最小限でZEV規制を満足するよう調整してきた自動車メーカーからみれば、今後車種ラインアップを全て見直すことが必須となる。

 当該規制には幾つかの前提条件がある。EVやFCEVは航続距離が150マイル(約240km)以上でなければならない。PHEVは電池のみで走行できる距離が50マイル(約80km)以上であること。さらに、PHEVは、各年のZEV販売量の20%以下でなくてはならない。


図2:ACC II ZEV+PHEV mandate[クリックで拡大] 出所:The California Air Resources Board

 またバイデン政権は2022年8月に「インフレ抑制法」を成立させた。その中にEVやPHEV、FCEVの購入支援も含まれており、購入者が受けられる税控除は最大7500ドルとなる(メーカー希望小売価格が乗用車で5万5000ドル以下、トラック/SUVは8万ドル以下の製品が対象)。最終組み立ての条件の他、電池調達に関する基準も発効し、法案発表後は北米での工場建設計画など活発な報道が続いている。

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