EVは「普及期」へ、生き残りに向けた3つの方向性:和田憲一郎の電動化新時代!(48)(2/3 ページ)
2023年にEVとPHEVを合わせた販売比率が18%になると予測されている。マーケティング理論上はアーリーアダプターからアーリーマジョリティーの領域に入る。また、多くの環境規制では2035年が1つの目標となっている。では、このように急拡大するEVシフトに対し、日本の自動車部品産業はいま何を考えておくべきか。
一方、欧州に目を転じれば、欧州委員会は2021年7月「Fit for 55 Package」と呼ばれる包括案を公表した。これは2030年の温室効果ガス削減目標を、1990年比で少なくとも55%削減を達成するための政策パッケージだ。当該法案は多くの内容が含まれるが自動車関係で議論になったのが「ガソリン車、ディーゼル車のみならず、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車も含めた内燃機関車の新規販売を2035年に禁止する」という点である。
本件は、欧州委員会、欧州議会、EU理事会の各官僚による長年の調整が終わり、2023年3月に政治的な承認となる欧州理事会(閣僚理事会)で終了する予定だったが、ドイツより2035年以降もe-Fuelを販売継続すべきと待ったがかかった。
この要請に対して、欧州理事会(閣僚理事会)は、免責事項として、2035年以降もe-Fuelのみで走行する新車の販売を継続するための法的ルートを作ることを約束して決着をみた。筆者が見る限り、議論の着地点は次の5つの要素と考える。e-Fuelは課題が多くまだまだ議論が続くと予想されるが、欧州委員会はe-Fuelについて2024年秋までに制度設計を固めるようだ。
- 議論の着地点
- 2035年に内燃機関の新車販売を禁止する法案に最終合意
- 2035年以降もe-Fuelのみで走行する新車の販売を継続するための法的ルートを作ることを約束
- e-Fuel車は、ガソリンや軽油を充填してもエンジンがかからないようにする
- e-Fuelでしか走れない車のための新しいEU車両カテゴリーを作る
- バイオ燃料は対象外とする
生き残りの3つの方向性
このように欧米で環境規制が一気に加速しており、2035年が1つの節目となっている。日本では、政府の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講じることを掲げている。ここでいう電動車とは、EV、FCEV、PHEV、ハイブリッド車(HEV)だ。日本では強制力のない目標だが、日系自動車メーカーの海外ビジネスのウエイトを想定すると、どうしても2035年を1つのターゲットに置くべきだろう。
では、日本の自動車部品産業は2035年というターゲットに対して、いま何を考えておくべきだろうか。欧米中の企業が必死で開発競争を繰り広げている中で、小手先ではなく「EVシフトの本質的なところで勝負しないと生き残れない」のではと筆者は考える。そのための「生き残りの3つの方向性」は以下の通りだ。
(1)「熱」を制する者がEVを制す
EVの本質は何かと考えるとき真っ先に思い浮かぶのは、EVはエネルギー源がバッテリーしかなく、走行以外のエネルギーロスをいかに抑えるかという点だろう。筆者の経験でもEV開発では多くの時間をエネルギーロス、いわゆるサーマルマネジメントに費やしていた。現在でも多くの自動車メーカーの開発責任者は、これに頭を悩ませているのではないだろうか。
その中でも最も多くエネルギーを消費するのが、冷暖房システムだ。これに関しては、自動車メーカー、空調機器メーカーが工夫して多様なシステムが開発されてきた。近年ではテスラによるオクトバルブ付サーマルマネジメント、またBYDによる新型バルブシステムなどがある。EVである限り、サーマルマネジメントとの闘いは続く。
そう考えると、自動車部品産業の関係者は、生き残りの戦略の重要な柱として、サーマルマネジメントに焦点を当てることが望ましいのではないだろうか。これは冷暖房に限らない。電子部品で使われる熱伝導性材料(TIM:Thermal Interface Material)のように、いかに熱を早く他部品に逃がすのかなど、いろいろなところにアイデアが潜んでいる。筆者はEVの本質の第一として、「熱」を制する者がEVを制すとしたい。
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