EVは「普及期」へ、生き残りに向けた3つの方向性:和田憲一郎の電動化新時代!(48)(3/3 ページ)
2023年にEVとPHEVを合わせた販売比率が18%になると予測されている。マーケティング理論上はアーリーアダプターからアーリーマジョリティーの領域に入る。また、多くの環境規制では2035年が1つの目標となっている。では、このように急拡大するEVシフトに対し、日本の自動車部品産業はいま何を考えておくべきか。
(2)モノづくりとデジタルの統合
次にEVシフトの本質的なものは何かと考えると、脱炭素での大きな役割が挙がる。その中で部品産業はモノづくりの局面において、漠然としたものではなく数字で裏付けが求められる。
つまり、EVシフトの時代は、それがどの地域で材料が採掘され、どのように生産されてきたのかなど、CO2排出量として算定、開示することが早かれ遅かれ必須となってくる。欧州では既にバッテリー製造に関して、2024年からカーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint)の算定と開示の義務付けが始まる予定であり、欧州ではバッテリーに続いてEVの主要部品でのCFP算出・開示義務付けもそう遠くないと思われる。
日本の自動車部品産業ではまだCFPへの意識はそれほど高くないが、源流にまでさかのぼってCO2排出量を調査し、計測し、ひも付けすることは、モノづくりの局面において大きな転換期となる。CO2排出量を調査、計測するだけでなくそれを証明することが大切となり、その解決方法としてブロックチェーンなどの活用も有効だろう。つまり、自らの商品力を磨くとともに商品とデジタルを統合したモノづくりがEVシフトで求められる。ここに大きなビジネスチャンスもありそうだ。
(3)3つのe-Mobilityの波に乗る
3つ目として、e-Mobility(電動モビリティ)を挙げたい。完全に、または部分的に電気を動力とした移動体だ。これにはEV/PHEVのみならず、電動キックボードや電動バイク、EVバス、EVトラック、電動船、電動建設機械、電動農業機械などが含まれる。
筆者は、その中で船舶や建設機械、農業機械の電動化に着目している。電動船に関しては、上述の「Fit for 55 Package」の中で「グリーンな欧州海運領域イニシアチブ」法案として審議されてきた。その結果、船舶のゼロエミッション化、つまり電動船や水素由来のエネルギーを使用する船の導入が法制化されている。
その影響のためか、欧州では島と島とを結ぶフェリーやクルーズ船などで電動船の導入が加速している。また2030年までに欧州主要港で充電インフラ(OPS:On-shore Power Supply)が義務化されていることも大きい。ボートでも電動タイプが増加しつつある。このような背景から、筆者は自動車より5年遅れて船舶での電動化の波が来ると推察する。
さらに、もう1つの波は、建設機械や農業機械の電動化だ。これはディーゼルエンジン車の2035年廃止とも関連しているが、欧州で電動建設機械、電動農業機械への移行が顕著である。自動車とともに建設機械などの電動化を推し進めるのは中国でも同様だ。日本では、2023年4月に開催されたG7サミット(主要国首脳会議)の農業大臣会合で、クボタが電動トラクターを、井関農機が電動芝刈り機を披露するなど日本のメーカーも電動化競争に参入している。
ここで「e-Mobility、3つの波に乗る」と取り上げるのは、自動車部品産業にとって、船舶や建設機械、農業機械の電動化は自動車と類似している部品が多く、また船舶や建設機械、農業機械の既存の企業はあまり電動化の経験がないことから、参入へのチャンスがあるのではと考えたからだ。船舶、建設機械、農業機械への電動化の波が自動車から5年遅れで来る可能性が高く、大きなビジネスチャンスとなるであろう。
今後の展開は
今回は筆者独自の視点で、生き残り3つの方向性について述べた。冒頭に説明したように、EVシフトは、ユリウス・カエサルがルビコン川を渡ったときに言った歴史的な言葉「賽は投げられた!」の通り不可逆的であり、既に普及モードへと突入しているといえる。ということは、波に乗り遅れた者は淘汰される可能性が大きくなっている。
また生き残り策の考え方も、EVシフトに対してより本質的なこと、さらに視野を広げてe-Mobilityの分野に目を向けると、大きなビジネスチャンスが広がっている。課題は、日本の自動車部品産業が、自ら生き残れる市場を見極め、勇気を持って従来と異なる分野に入っていけるかどうかであろうか。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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