【総まとめ】CAEと疲労強度計算について振り返る:CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(19)(3/4 ページ)
金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。最終回となる連載第19回では、連載の総まとめとしてこれまでの内容を振り返る。
エレメント先生
有限要素法には、図3に示す1次要素と2次要素があり、その違いを説明するために初歩的な有限要素法の手順を全部説明してしまい、ちょっとだけ先生になった気分でした。1次要素と2次要素の解析精度に違いが出る理由として、「それは形状関数の次数の違いなんだよ」と言ってもご理解いただけないと思い、有限要素法の手順を全部説明した次第です。特に、変位−ひずみマトリクスの導出の辺りでピンと来ていただければ幸いです。
1次要素と2次要素では解析精度がかなり異なることを、円孔を開けた平板を例にとって説明しました。そして、計算精度の悪さから1次要素はもはや使う必要がないと述べました。3D CADに付属しているCAEソフトを使っている方が大部分だと思いますが、何も指定しなかった場合(ほとんどがこの場合だと思いますが)、そのCAEソフトが1次要素を使う設定なのか、2次要素を使う設定なのか、つまりデフォルト設定がどうなっているかを知ることの重要性と、その確認方法を説明しました。
2次要素では、要素内の変位を座標の2次式で表すことができると仮定し、剛性マトリクスが作られています。ひずみは変位を座標で微分したものなので、ひずみの分布は座標に対して1次式で表せる分布になります。よって、応力も1次式です。はりの曲げ問題では、曲げ応力は板厚方向に対して1次式で変化するので、2次要素の仮定と合致します。こうなると要素分割を細かくする必要はなくなり、図4に示すように、板厚方向1分割で有限要素法の解析結果は、はり理論の計算値と一致します。
構造物の荷重はいろいろとありますが、曲げ荷重が作用する場合が多いと思います。明らかに「この辺は曲げ応力だな」と思ったら、板厚方向1分割でOKということになります。解析コストは要素数に連動して上昇するため、「曲げ応力では板厚方向1分割」ということを覚えておけば、解析コストとリードタイムを削減できるのではないかと思います。
「板厚方向1分割」について少しだけ注意点があります。「アワーグラスモード」といって、六面体要素が砂時計(アワーグラス)のような形になります。四面体要素の場合はコンペイトウのような形になります。もしくは、節点変位が許容値を上回った旨のエラーメッセージが出力されます。2次要素の場合、1年に1回くらい遭遇します。対処法は要素分割を少し細かくします。
からかい上手の高橋さん
読者の皆さんをからかったことはありませんが、本連載でもかなり毒舌を吐いてしまいました。申し訳ありません。連載第12回の「一言でいうと、接触要素を使わなければ話にならない」発言は少々インパクトがあったと思います。
CAEソフトは部品が複数あると、接触面に接触要素を自動的に配置します。そして、その接触要素の挙動は「固着」となることがデフォルト設定です。図5にフレーム構造物の変形解析を示します。
デフォルト設定に従うと、部品同士は強固な接着剤で引っ付いた状態で解析されるため、図5右図のような結果となります。「フレームがポキッと折れるのではないか?」と心配になります。
図5左図は接触要素の挙動を「摩擦あり接触」に変えた場合です。実際の変形形状となっています。そして、壊れそうな箇所がフレームではなく結合部であることが分かります。部品が複数あるときは「摩擦あり接触要素」が必須となります。
以前お届けした連載「CAEと計測技術を使った振動・騒音対策」では、振動変位を下げるには「とにかく装置の剛性を上げる」的なことを説明しました。
振動問題が起こりそうな機械では、設計段階で装置剛性を予測します。装置剛性予測を図5左図で行った場合と、図5右図で行った場合とでは、剛性値が約15倍も異なります。接触要素を固着として設計段階で剛性を高めに見積もった際、振動変位は小さめに予測されて「振動問題なし」との判断がされたとしましょう。しかし、実際は図15左図の変形をします。先ほど見積もった剛性の15分の1の剛性となるので振動変位は大きくなります。
これで振動問題が顕在化するかどうかは運次第ですが、CAEソフトのデフォルト設定の「固着」接触要素を使った場合は、「振動問題なし」と判断してしまい、危険側の見積もりとなります。
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