PETのケミカルリサイクル、分解効率を28倍に向上した酵素を開発:リサイクルニュース
キリンホールディングスのキリン中央研究所や静岡大学 農学部、分子科学研究所(NINS)、大阪大学 蛋白質研究所は共同で、ケミカルリサイクル技術の1つである「酵素分解法」で用いる「PET分解酵素」を改変し、PETを高効率で分解できる酵素の開発に成功した。
キリンホールディングスは2024年11月25日、同社のキリン中央研究所や静岡大学 農学部、分子科学研究所(NINS)、大阪大学 蛋白質研究所が共同で、ケミカルリサイクル技術の1つである「酵素分解法」で用いる「PET分解酵素」を改変し、PETを高効率で分解できる酵素の開発に成功したと発表した。
研究開発の背景
近年、プラスチックごみの燃焼によるCO2の発生など、環境負荷の問題が注目されている中、容器の包装資源やプラスチックを用いた繊維製品を資源循環する持続可能な仕組みを作っていくことが世界的にも求められている。その解決策として、ケミカルリサイクル技術への関心が高まりつつある。
ケミカルリサイクル技術とは、廃ペットボトルを選別、粉砕、洗浄して汚れや異物を取り除いた上で化学分解処理を行い、PETを中間原料まで分解、精製したものを再びPETに合成する方法を指す。
昨今は、分解の工程で酵素を用いて、PETをモノマーの分子単位まで分解する「酵素分解法」が注目されている。酵素分解法は従来の代表的なケミカルリサイクル法と比べ、低温でPETを分解できるため、より環境への負荷を下げることができる。
一方、PET分解酵素の活性が低いため実用化に至っていなかった。そこでキリンホールディングは、PET分解酵素の実用化を目指し、静岡大学、NINS、大阪大学と共同で耐熱性のPET分解酵素である「PET2」の研究開発を2022年に開始した。
研究開発の成果
この研究開発では、PET2を改変した「PET2-14M-Hotlike」を作製し、PETとポリウレタン、PETとコットンといった2種類の混紡繊維中のPETを選択的に分解できることを確かめた。PETとコットンの混紡繊維中のPETをPET2-14M-Hotlikeで分解する検証で、PET分解率が90%あると分かった。なお、PET分解率とは、検証に使用したPET全量のうち、PET分解酵素により分解できたPET量の割合を指す。
PET2-14M-Hotlikeを基盤に、酵素の機能を保つために必要な熱安定性とPET分解の活性を向上させた酵素「PET2-21M」の作製にも成功。PET2-21Mを用いてPETボトル中のPETを分解する検証において、反応温度60℃でPETを分解する量が、改変前の酵素であるPET2と比較し28倍に向上することを確認した。
今後、キリンホールディングスは開発したPET分解酵素の社会実装を目指して新たなパートナーの探索を行う。
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