水を主成分とする世界最高の蓄熱密度を備えた新たな蓄熱材:材料技術
三菱電機と東京科学大学は、水を主成分とする感温性の高分子ゲルを利用して、30〜60℃の低温の熱を1リットル(l)当たり562キロジュール(kJ)という蓄熱密度で蓄える蓄熱材を開発した。
三菱電機と東京科学大学(Science Tokyo)は2024年11月14日、水を主成分とする感温性の高分子ゲルを利用して、30〜60℃の低温の熱を1リットル(l)当たり562キロジュール(kJ)という蓄熱密度で蓄える蓄熱材を開発したと発表した。東京科学大学では物質理工学院 材料系 教授の早川晃鏡氏が今回の研究を担った。
感温性高分子ゲル開発の流れ
人などの細胞質には高分子が高濃度で存在し、高分子混雑環境が形成されている。高分子混雑環境下にある水分子は高分子間の狭い空間に閉じ込められ、配列構造が乱れることはこれまでにも知られていた。水分子は配列性が低くなるほど、エネルギーが高くなる性質を持つ。そのため、三菱電機は高分子混雑環境の有無を制御することができれば、水分子のエネルギーの高低も制御が可能になり、そのエネルギーの差分だけ蓄熱密度を高くできるのではないかという仮説を立てた。
高分子混雑環境の有無を制御するために同社は、温度によって親水性あるいは疎水性に変化する感温性高分子を使うことに着目したが、従来の感温性高分子は高分子混雑環境を形成することができなかった。
そこで、同社が独自に開発してきた分子シミュレーション技術を用いて、安全で安価な素材である水を主成分とし、温度によって高分子の形が変わり、温めると高分子混雑環境を形成する感温性高分子ゲルの設計/開発に成功した。
開発した感温性高分子ゲルは放熱時(低温時)に親水性であるため、水を分離せずに混ざり合い、多くの水分子は感温性高分子ゲル内に高配列で存在する。一方、温められると疎水性に変わる構造相転移反応が起こり、高分子鎖が縮む。
高分子鎖が縮んで高分子混雑環境になると、高分子から離れ網目構造の中心付近にいた水分子は高分子の狭い網目構造に束縛されないため、すり抜けて感温性高分子ゲルの外側に飛び出し、感温性高分子ゲルと水は分離する。
また、高分子の近くにいた水分子は高分子の狭い網目構造に束縛され閉じ込められることで水素結合反応が弱くなり、水分子の配列構造が乱れて高エネルギー化する。このように、感温性高分子ゲルの構造相転移反応と、水分子間の水素結合反応からなる連成反応による水分子の高エネルギー化を利用し、高密度(562kJ/l)に蓄熱できることを世界で初めて実証した(同社調べ)。
さらに、感温性高分子ゲルは、化学物質管理促進法の指定物質を使わず、安全で安価な水(構成比が6〜9割)と無毒で不燃性の感温性高分子で構成されており、入手しやすく安心して使える素材だ。
両社の役割と感温性高分子ゲルの特徴
両者は2016年から共同研究を行ってきた。高い階層構造ポリマー合成技術を保有する東京科学大学において、感温性高分子ゲルの合成法を検討し、合成原料の選定と合成反応経路の設計を実施した。三菱電機では、感温性高分子ゲルをラボレベルで合成して、評価し、60℃以下の低い蓄熱温度で世界最高の蓄熱密度(562kJ/l)を実現。東京科学大学が開発した合成反応制御技術により、感温性高分子ゲルの均質化を達成し、大量の感温性高分子ゲルを合成して試作した蓄熱材でもラボレベルと同等の蓄熱密度を実現した。
蓄熱温度が30〜60℃(温度差30℃)における蓄熱材ごとの蓄熱密度を比較したところ、温水で125kJ/l、市販品である脂肪酸で225kJ/l、パラフィンで260kJ/lであるのに対し、開発した感温性高分子ゲルは562kJ/lと2倍以上の圧倒的な蓄熱密度を有す。
今後、三菱電機は感温性高分子ゲルの蓄熱温度範囲の拡大に取り組み、未利用熱の有効利用を推進することで、カーボンニュートラル社会の実現に貢献する。
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