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2035年まであと10年、来るべきEVシフトにどのように備えるべきか和田憲一郎の電動化新時代!(53)(3/3 ページ)

多くの環境規制が一つの目標に設定している2035年まで、あと10年に迫ってきた。日々の報道では、EVシフトに関してネガティブとポジティブが錯綜し、何がどうなっているのか分かりにくいという声も多い。では、自動車産業に携わる方は、EVシフトに対して、いま何を考え、どのように備えておくべきであろうか。

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(2)BYDを研究すべし

 日本では、テスラに関してはよく話題になり、技術動向も報道されることが多い。逆に、BYDは中国企業ということもあり報道されることが少ないように思われる。しかし、BYDは、2023年はBEVとPHEVの合計で302万台を販売し、2024年は当初の販売目標360万台に対し、販売が好調のため400万台に上方修正している。400万台と言えば、2023年の日産自動車の販売台数344万台を超え、ホンダの410万台レベルとなる。また、BYDは2026年までに世界販売台数を年間600万台まで伸ばせると予測しているようだ。

 ここで少しBYDの戦略について考えてみたい。2024年2月、BYDは「ガソリン車よりも安い電気自動車(電比油低)」というスローガンを掲げ、一気に低価格競争を仕掛けた。BYD 董事長の王伝福氏は「中国の新車市場におけるNEVの比率が2024年中に単月で50%を超える」と予測し、さらに「中国自動車市場における合弁ブランドのシェアが今後3〜5年で44%から10%にまで低下する」と見込んでいる。

 筆者は以前にBYDの深セン本社を複数回訪問したことがある。その中で一度、王伝福氏と意見交換する機会があった。その時の印象は、夏場で服装が開襟シャツだったことも影響しているかもしれないが、偉ぶらず、温和で、われわれの質問に対しても丁寧に答えてくれていた。

 しかし、そこはBYDの創業者である。中国の歴史上に残る多くの戦略を参考にしているのではないだろうか。ここからはあくまで筆者の推論であるが「孫子の兵法」に次のような名文がある。「勝兵は先ず勝ちて、しかる後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて、しかる後に勝ちを求む」という。つまり、事前に十分準備し、勝利する態勢を整えてから戦う者が勝利を収め、戦いを始めてから慌てて勝機をつかもうとする者は敗北に追いやられるという意味である。

 おそらく、王伝福氏は、今回の「電比油低」という価格破壊の革命的戦略を実施するに当たり、相当な準備をしてきたのではないだろうか。その上で、製造原価をどこまで下げることができるのか、また販売台数をどこまで伸ばせば、企業としての収益は維持できるかを考え、その絶妙なバランスの上で構築した戦略であると推察する。他の自動車メーカーがBYDの値下げ攻勢に対して、準備もなく単に追随するのであれば、あっという間に収益が悪化し、経営不振に陥るであろう。

 なお、中国メディアによれば、BYDの総従業員数は90万人を超え、技術研究開発部門も11万人を上回っているとのこと。世界展開を見据えて人員規模を拡大し、準備に取り掛かっているようにも見える。技術的にも、革新的なブレードバッテリーや、BEVのスポーツセダン「SEAL」でe-Axleを構成する8部品を一体化した「8 in 1」を採用しており、目が離せなくなってきた。筆者は、日本の自動車産業にとって、徹底した調査研究対象とすべきだと考えている。

図3
図3 BYDの「SEAL」[クリックで拡大] 出所:BYD Auto Japan

(3)自動車産業単独ではなく電機・電子産業との連携を

 将来のBEVは、ソフトウェアによって自動車の機能や性能を定義し、アップデート可能な自動車、すなわちSDV(ソフトウェアディファインドビークル)になると言われてきた。特に、前回の連載第52回「時代の変化に対応できない企業は倒産前に輝くといわれているが」で示したように、AI(人工知能)の進化により「エンドツーエンド(E2E)」の開発が求められる時代が到来している。

 しかし、日系自動車メーカーは、テスラや中国の自動車メーカーのように十分なソフトウェア技術者を確保できていないのが現状である。中国の生成AIベンチャーとの提携も一案であるが、中国国内のみでのビジネスには適しているものの、日米などの地域では経済安全保障の観点から障害が生じる可能性がある。また、生成AIなどのソフトウェア技術者は、需要の増加により1年半〜2年で離職することが多いとも言われている。

 このような状況を踏まえると、日本においては、自動運転など将来のビジネスを見据え、SDV時代のソフトウェアの弱点を補うために、自動車産業と電機/電子産業との合弁会社の設立や提携が最も望ましいと考える。自動車とエレクトロニクス、ソフトウェアを融合させたモビリティを目指すことが、生き残りのための重要な視点ではないだろうか。

筆者紹介

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和田憲一郎(わだ けんいちろう)

三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。


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