ナノサイズ結晶粒を備えた白金材料の製造技術を開発、硬度は10倍で強度は4倍:材料技術
田中貴金属工業は、白金材料の結晶粒径をナノサイズに制御したバルク体の開発に成功した。
田中貴金属グループの中核企業として産業用貴金属事業を展開する田中貴金属工業は2024年10月30日、白金(プラチナ、Pt)材料の結晶粒径をナノサイズに制御したバルク体の開発に成功したと発表した。同社の調べによれば、白金材料の結晶粒径をナノサイズに制御したバルク体の開発は世界初だ。
今回の技術を適用した事例では、白金材料の結晶粒径について平均で50nm(0.05μm)、最大で270nm(0.27μm)で制御できている。一般的な金属バルク体の粒径は小さくても約10μm程度とされていたことから、ナノサイズで制御できているといえる。このナノサイズの制御によって、一般的な白金材料と比べ10倍の硬度と4倍の強度を有する純度99.9%以上の高純度な白金材料を製造することができる。一般的な金属バルク体の平均粒径は小さくても約10μm程度とされていた。
今回の技術で製造した白金材料(左)と同材料のEBSD像(右)。EBSDとは結晶構造を持つ材料に電子線を照射して、材料表面で生じる後方散乱回折を解析することで材料の結晶情報(結晶系、粒径、配向性など)を調べる手法だ[クリックで拡大] 出所:田中貴金属工業
今回の技術を開発した背景
貴金属を含む金属材料では、結晶粒サイズを小さくすればするほど、各金属の特性が高まることが知られている。近年鉄鋼や非鉄金属では、強加工により大きな塑性ひずみを与えたり再結晶組織を形成したりすることで結晶粒径のナノサイズ化を実現している。
金属材料は強加工により一時的に加工硬化する。一方、純度の高い貴金属材料では、数時間〜数日で結晶を構成する原子で再配列が発生する他、新たな結晶粒の核生成と成長も起き、材料の硬さが低下(軟化)する現象などが生じる。これらの理由から、強加工により結晶粒を微細化することは困難だった。
そこで田中貴金属工業では、製造プロセスを最適化することにより白金材料で結晶粒径をナノサイズに制御しながらバルク化することに成功した。同技術で製造された白金材料は硬度と強度が一般的な白金よりも向上する。
硬度と強度が向上する理由は、白金材料全体において高密度で小角粒界や大角粒界あるいは転位などの格子欠陥が存在するからだ。高純度な白金で高い機能を発現する新規材料として、エレクトロニクス産業や宇宙航空分野など、幅広い産業への適用が期待される。
関連記事
- 田中貴金属工業が真空成膜装置部材に付着した貴金属の新たな回収方法を確立
田中貴金属工業は真空成膜装置部材に付着した貴金属の新たな回収方法として治具洗浄法「TANAKA Green Shield」を確立したことを発表した。 - 世界初、田中貴金属工業が3Dプリンタ向け白金基金属ガラスの粉末開発と造形に成功
田中貴金属工業は、3Dプリンタ向け白金基金属ガラスの粉末開発と造形に「世界で初めて」(同社)成功したことを発表した。 - スパークプラグ外部電極の材料コストを半減、田中貴金属が白金チップを新開発
田中貴金属工業は、ガソリンエンジンの点火に用いるスパークプラグの外側電極の材料コストを半減できる白金チップを開発した。白金合金とニッケルをクラッド(異種間接合)した製品で、白金使用量を大幅に低減することで、コスト削減につなげた。 - 10μm以下の微細な粒径と高い結晶性を持つハイエントロピー合金粉末の開発に成功
田中貴金属工業は、10μm以下の微細な粒径と高い結晶性を兼ね備え、組成の均一性に優れた貴金属から成るハイエントロピー合金粉末の開発に成功したと発表した。 - 中国での燃料電池用電極触媒の生産体制確立に向けた技術援助契約を締結
田中貴金属工業は燃料電池用電極触媒に関する技術援助契約を中国の関連会社である成都光明派特貴金属と締結した。中国国内における燃料電池用電極触媒の生産体制を構築し今後の需要増加に対応する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.