アステラスのAI創薬は人とロボットとの連携で花開く、7カ月で新薬を創出:人工知能ニュース(3/3 ページ)
アステラス製薬 専務担当役員 研究担当 CScOの志鷹義嗣氏は、2019年から進めてきたAI創薬の取り組みについての合同取材に応じた。AI創薬の大きな成果として、STING阻害剤として有効な「ASP5502」を創出するとともに、その最適化研究の期間を従来比で3分の1以下となる7カ月で完了することに成功したという。
複雑なモダリティのAI創薬では生成AIが有効
ASP5502は低分子創薬の事例だが、アステラス製薬では今後、タンパク質分解誘導剤、抗体、細胞、遺伝子治療といった、より分子構造が複雑なモダリティの開発にもAI創薬を適用していく方針である。
治療の難しいがんなどに効果のあるタンパク質分解誘導剤は、2つの成分をリンカーという化学構造によってつなげて生成する。このタンパク質分解誘導剤が標的タンパク質に作用する際のシミュレーションや、細胞膜透過性の物性を予測するのにAIを適用する取り組みを進めている。また、より分子構造が大きな抗体については、AIによる新規設計に加えて、アミノ酸の配列を言語モデルとして捉えて予測精度を向上する取り組みなどを行っている。
これらタンパク質分解誘導剤や抗体のAI創薬では、拡散モデルに基づく生成AIの活用によって処理速度を高められることが知られている。そこで、より高い性能を持つAIインフラになることが期待されているのが、NVIDIAと三井物産子会社のXeureka(ゼウレカ)が構築した創薬AI支援サービス向けのAIスーパーコンピュータ「Tokyo-1」だ。NVIDIAの「DGX H100」を採用することで、低分子にとどまらないさまざまなモダリティの創薬におけるAIの計算速度を大幅に向上できることを確認している。「高性能のGPUを独占的に利用できるとともに、メンテナンスなどをサービス提供者に任せられるので、オンプレミスで構築するよりも効率が良い。Tokyo-1には、当社だけでなく他の国内医薬品メーカーも参加するので、非競合領域でコミュニケーションすることでスキルアップも図れる」(志鷹氏)。
アステラス製薬としてAI創薬を推進するために重視しているのが、グローバルなデータ基盤の統治である。ロボットを横展開し均一なデータ取得が行えるように取り組んでいるのも、人×ロボットでデータ量を効率的に増やし、AIの性能をさらに向上できるようにするためだ。
外部採用や社内のスキルアップによる人材の強化も強化している。AIだけでなく、ロボット、実験の自動化に関して高い知識をとスキルを持つ研究者の採用に向け、製薬以外の業界からの応募も歓迎している。志鷹氏は「国内医薬品メーカーが協力して製薬×データサイエンスのイベントを行うなど、業界として力を入れていることを知ってもらえれば、大学などでの育成も進んでいくのではないか」と述べている。
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