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細胞医療製品を双腕ロボットで量産、アステラス製薬が2026年に治験薬を供給へロボット開発ニュース(1/2 ページ)

アステラス製薬は、ロボットを用いて細胞医療製品の製造を自動化する取り組みについて説明するとともに、2023年3月につくばバイオ研究センターに導入した製造技術検証用の双腕ロボット「Maholo」を報道陣に公開した。

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 アステラス製薬は2023年8月7日、つくばバイオ研究センター(茨城県つくば市)で会見を開き、ロボットを用いて細胞医療製品の製造を自動化する取り組みについて説明するとともに、同年3月に導入した製造技術検証用の双腕ロボット「Maholo(まほろ)」を報道陣に公開した。今後はFDA(米国食品医薬品局)やEMA(欧州医薬品庁)などとMaholoを用いて製造した細胞医療製品の承認が得られるように交渉を進めながら、2026年ごろにMaholoで製造した治験薬の供給を目指す。

アステラス製薬がつくばバイオ研究センターに導入した双腕ロボット「Maholo」の動作デモ[クリックで再生]
2023年3月に導入したつくばバイオ研究センターの「Maholo」
2023年3月に導入したつくばバイオ研究センターの「Maholo」[クリックで拡大]
電動ピペットを使って薬液を注入プレートを顕微鏡に設置して培養状況を確認 細胞培養プレートに電動ピペットを使って薬液を注入する様子(左)。プレートを顕微鏡に設置して培養状況を確認したり(右)、インキュベーターに入れて培養したりなどの作業も自動で行えるようになっている[クリックで拡大]
アステラス製薬の山口秀人氏
アステラス製薬の山口秀人氏

 細胞医療製品は、低分子化合物から成る一般的な医薬品や、細胞培養技術などを用いて製造したタンパク質を用いるバイオ医薬品とは異なり、iPS細胞やES細胞といった多能性幹細胞から作られる医薬品である。アステラス製薬 CMCディベロップメント 原薬研究所 所長 つくばバイオ研究センター センター長の山口秀人氏は「細胞医療製品は、患者自身の細胞を用いる自家細胞製品と、誰にでも移植できるユニバーサルドナーセル(UDC)などを用いる他家細胞製品がある。当社は、オーダーメイド品として高コストになりがちな自家細胞製品ではなく、大量生産によってコスト削減が可能になる他家細胞製品の開発に注力している。この他家細胞製品の大量生産に向けて、当社がこれまで研究開発で活用してきたMaholoを役立てることができる」と語る。

 一般的な他家細胞の細胞医療製品は、iPS細胞やES細胞などの出発細胞を増殖させてから、神経や筋肉、臓器、血液、骨など治療に使う目的の細胞に分化させた上で、治療に適した細胞を選別するという工程を経て得られる。そして、出発細胞を目的の細胞に分化させ選別する作業は繊細さが求められる上に再現性が低いこともあり、“匠の技”や“匠の眼”といった職人技を持つ作業員が必要であり、さらに製造期間も数週間〜数カ月と長期にわたる。さらには、細胞医療製品の投与は実質移植医療と同等であり、汚染や拒絶反応、がん化といったリスクを低減するための高度な品質管理も求められる。これらさまざまな課題があることから、現状では細胞医療製品の製造をロボットなどで自動化できている事例はほぼないという。

細胞医療製品の作り方
細胞医療製品の作り方[クリックで拡大] 出所:アステラス製薬

一般的な作業者の成功率50%に対して「Maholo」の成功率は80〜90%

 細胞医療製品の製造における「職人技」「複雑な生産プロセス」「高度な品質管理」という3つの課題を解決すべく、アステラス製薬がつくばバイオ研究センターに導入したのがMaholoである。Maholoはもともと、産業技術総合研究所と安川電機グループのロボティック・バイオロジー・インスティテュート(RBI)が開発した、双腕ロボットを使用したラボ向け自動培養システムである。

 アステラス製薬は2017年、創薬部門の研究拠点であるつくば研究センター(茨城県つくば市)に民間企業として初めてMaholoを導入しており、同社の細胞医療研究で利用するとともに、多機能自動装置と組み合わせた研究開発プラットフォーム「Mahol-A-BA」に進化させるなど活用を進めてきた。山口氏は「Maholoはラボ向けのロボットではあるものの、人が行う作業を長時間精緻に繰り返して行えるという特徴は、細胞医療製品の大量生産に応用できるのではないかと考えた」と説明する。

2017年に導入したつくば研究センターの「Maholo」
2017年に導入したつくば研究センターの「Maholo」。双腕ロボットである点は同じだが、周囲に設置されている設備や治具などは研究開発に最適化されたものとなっている[クリックで拡大]

 実際にこれまでのMaholoの運用事例では、一般的な作業者では50%程度でしか成功できない精緻さが求められるプロトコルについて、80〜90%の確率で安定して成功させられるという実績がある。

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