細胞医療製品を双腕ロボットで量産、アステラス製薬が2026年に治験薬を供給へ:ロボット開発ニュース(2/2 ページ)
アステラス製薬は、ロボットを用いて細胞医療製品の製造を自動化する取り組みについて説明するとともに、2023年3月につくばバイオ研究センターに導入した製造技術検証用の双腕ロボット「Maholo」を報道陣に公開した。
「技術移転という“死の谷”をロボットで駆け抜ける」
アステラス製薬の細胞医療製品の製造自動化は、Maholoを核とした「セル型製造プロセス」と、研究から製造までプログラムやデータを共有するデジタルプラットフォーム「One Click Transfer」で構成されている。
まず、セル型製造プロセスは、Maholoが細胞の培養、目的細胞への分化/選別という作業を全て行う。標準的な作業例では、細胞観察、細胞剥離、細胞回収、遠心濃縮、細胞数計測、細胞播種などがあるが、組み立て製造業におけるセル生産と同様に、Maholoの周囲に配置した設備や道具を用いて、これら全ての作業が行えるようになっている。
同様の作業をライン型で行うこともできるが、設置面積がセル型は4×3mであるのに対しライン型は10×3mと2.5倍と広いスペースが必要になる。またセル型は、1台のロボットで複数の製品に対応でき、ライン型のように製品ごとの段取り替えが不要だ。「一口にライン型と言っても、特定製品のラインを構築するのに年単位の期間がかかり、細胞医療製品の場合は実際に生産してもうまくいかないことさえあり得る。Maholoを使ったセル型であればそういったリスクも抑えられる」(山口氏)。
One Click Transferは、Maholoを研究開発で使いこなしてきたアステラス製薬ならではのプラットフォームとなる。これまで、医薬品候補を探索する「研究」、研究で見定めた医薬品の量産手法を探索する「製造プロセス研究」、医薬品に求められるGMP(適正製造規範)に準拠した「GMP製造」といった各プロセスのはざまで、文書作成や現地トレーニング、習熟培養といった技術移転のプロセスが存在していた。
しかし、実際にはこの技術移転のプロセスを越えられず、製品化を断念することもあった。One Click Transferは、研究からGMP製造までをMaholoという同一プラットフォームとデジタルデータの活用により、技術移転を従来よりも容易に行えるようにする狙いがある。「技術移転という“死の谷”をロボットで駆け抜ける」(山口氏)。
ただし、Maholoという同じロボットを使うとはいえ、研究、製造プロセス研究、GMP製造では使用環境が異なる。そこで、2017年につくば研究センターに導入したMaholoと、製造プロセス研究を担うつくばバイオ研究センターのMaholoの間で重要な制御ポイントを共有するための仕組みを作り込んでいく方針だ。併せてAI(人工知能)によるプロセスの最適化も進めて、GMP製造に展開する。
アステラス製薬としては、Maholoを中核としたセル型製造プロセスとOne Click Transferにより、細胞医療製品の開発期間を最大で数カ月短縮することも可能という見立てで、この場合1製品当たり約40億円の利益を生み出すという。
今後は、つくば研究センターとつくばバイオ研究センターに加え、2023年4月に京都大学iPS細胞研究所(CiRA)に導入したMaholoを加えてデータを蓄積しながら、2026年の治験薬供給に向けた準備を進める。Maholoによる治験薬のGMP製造の第1候補となるのが、米国マサチューセッツ州ウエストボロにあるAIRM(アステラス再生医療研究所)である。
これは、先進的な製造技術(Advanced Manufacturing Technologies)を用いる医薬品の開発を促進するために迅速な審査対象を可能とするFDORA法(Food and Drug Omnibus Reform Act of 2022)が米国で制定されたことも関係している。FDORA法と同時期に制定されたIRA法やCHIPS法は、米国内での生産回帰を求める内容であり、FDORA法の適用でも米国内での製品生産が優先される可能性は高い。山口氏は「まだどこで生産するかは未確定だが、One Click Transferが遠隔地にあるMaholoにも適用できることを示すという観点でも、海外の細胞医療製品の製造拠点であるAIRMは有力候補になるだろう」と述べている。
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