複数吸着パッドのロボットハンドで世界最高性能、東芝が2段構成AIモデルで実現:人工知能ニュース
東芝が複数の吸着パッドを持つロボットハンドにより対象物の形状や姿勢に合わせてつかむ位置とつかみ方(把持計画)を正確かつ高速に計算するAI技術を開発。先行研究との比較で計算時間が10分の1以下になり成功率も上回ったことから「世界最高の平均計算速度と平均成功率を達成した」(同社)という。
東芝は2024年10月17日、複数の吸着パッドを持つロボットハンドにより対象物の形状や姿勢に合わせてつかむ位置とつかみ方(把持計画)を正確かつ高速に計算するAI(人工知能)技術を開発したと発表した。先行研究との比較では計算時間が10分の1以下になり成功率も上回ったことから「世界最高の平均計算速度と平均成功率を達成した」(同社)という。また、実機のピッキングロボットに適用したところ94.5%の確率で乱雑に置かれた形状や外観の異なる物品のピッキングに成功した。今後は物流倉庫での実証やさらなる研究開発を進め、2026年度以降に開発技術を搭載した製品の実用化を目指す。
数千〜数万種の物品を扱う物流現場のピッキングに用いられるロボットハンドとしては、柔軟性や操作性、動作速度、デリケートな物品の取り扱いやすさなどの観点から吸着ハンドが採用されることが多い。ただし、サイズや形状、姿勢がさまざまに変わる対象物に対応するのであれば、吸着パッドが1個の吸着ハンドよりも、複数の吸着パッドを持つ吸着ハンドを使用するのが効果的だ。しかし、正確な吸着ハンドの向きと吸着パッドの接触位置の導出や、隣り合った2個の対象物を同時に取らないようにすることなど動作の計算に時間がかかることが課題になっていた。
今回開発した技術は、吸着ハンドが対象物に接触できる面を検出する1段目のモデルと、検出した面の法線方向に基づいて射影変換させた画像から吸着ハンドの向きと吸着位置を決定する2段目のモデルで構成されている。1段目のモデルから出力される情報(特徴マップ)を2段目のモデルの計算にも活用することで短時間で把持可能な吸着位置を特定できるようになり、計算時間を大幅に短縮することにつなげた。従来は、対象物を画像として写してから、吸着パッドの吸着候補位置を推定する計算を繰り返し行い、その中からベストな把持位置を決定していたため、吸着位置の計算に時間がかかっていた。
また、従来技術では対象物が密集している場合、複数の吸着パッドを持つ吸着ハンドによるピッキング精度が低下する傾向があった。そこで、東芝の独自技術を用いて対象物の傾きに合わせたハンド姿勢の正確な学習を実現し、物体の向きがバラバラで乱雑に置かれていても把持することができるようになった。
実際のロボットに搭載したカメラから取得した画像約4千枚を事前学習させて、この2段構成のAIモデルを構築した。そして、学習データと異なる272枚の画像を対象に把持位置の計算時間と精度を検証/評価したところ、同様の先行研究例で計算時間5.62秒、成功率73.9%となっていたのに対して、計算時間は10分の1以下の0.47秒に短縮できるとともに、成功率は80.1%と6.2ポイント増加し、世界最高の平均計算速度と平均成功率を達成した。
また、この2段構成AIモデルを実機ロボットに適用したところ、94.5%の平均成功率で対象物を把持することができ、実用化レベルであることを確認した。なお、AIモデルの学習では技術者によるプログラミングが不要であり、ロボット導入後に対象物の種類が増えた場合でも追加学習が容易なので、ロボット全体のコスト低減にもつながるとしている。
今回の開発技術は、2024年10月14〜18日にアブダビ首長国で開催されるロボティクス分野の国際学会「IROS(IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems)2024」で発表される予定だ。
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