CO2の回収と再循環まで踏み込むデンソーのサステナ戦略、なぜ必要なのか:製造業は環境にどこまで本気で取り組むべきか(1/4 ページ)
自動車部品メーカーとしてCO2回収や再循環などより本質的なカーボンニュートラルに向けて積極的な技術開発を進めているのがデンソーだ。デンソー 安全・品質・環境本部 安全衛生環境部 サステナブル環境戦略室 室長の小林俊介氏に、環境問題への取り組みとその考え方について話を聞いた。
製造業に対するカーボンニュートラルへの圧力が高まる中、各社は機器の電化や使用エネルギーの再生可能エネルギー化を進め、さらに足りない部分はグリーン電力証書など取引を活用する動きが広がっている。
こうした動きに「寄り道投資になるのでは?」と疑問を呈し、より本質的なCO2回収や再循環の技術開発に積極的に取り組んでいるのがデンソーだ。デンソー 安全・品質・環境本部 安全衛生環境部 サステナブル環境戦略室 室長の小林俊介氏に環境問題への取り組みとその考え方について話を聞いた。
連載「製造業は環境にどこまで本気で取り組むべきか」の企画趣旨
環境問題に対する取り組みが、製造業としてのビジネス面で無視できないものとなってきています。しかし、これらは収益性や事業性とトレードオフの関係になる場合も多く、やみくもに進められるものではありません。そこで、MONOistでは、環境特集「カーボンニュートラルへの挑戦」および「サステナブルなモノづくりの実現」の中心企画として、製造業として環境への取り組みにどのように向き合い、どのような優先順位で進めているのかを各企業のキーマンに伺う本連載を企画しました。
⇒連載のバックナンバーはこちらから
環境問題に対するステークホルダーが増加
MONOist 現在の環境問題に対するさまざまな動きについてどのように捉えていますか。
小林氏 取り組み自体は見方によっては順調であり、違う見方をすれば課題があるといえます。順調な点としては、さまざまな枠組みが出来上がってきている点があると考えます。例えば、自動車サプライヤーとしてデンソーが所属する日本自動車部品工業会(JAPIA)でもカーボンニュートラルの目標を出しており、デンソーもそれに準拠する形で目標への取り組みを進めています。また、政府も2050年のカーボンニュートラルを目指した目標を掲げ、2030年度までに2013年度比で温室効果ガス排出46%削減の目標を打ち出しており、カーボンニュートラルに積極的に取り組む機運が醸成されてきたと感じています。具体的な数値目標があることでそれを基に、どういう取り組みを進めていくかという議論も深まってきています。
数年前までは「そもそもカーボンニュートラルに取り組むべきなのか」という声もありましたが、今ではそういう声はありません。カーボンニュートラルを前提として何をどうやるかという形でフェーズが進んだと見ています。
一方で、実際に進めていこうとすると難しい点に数多く突き当たっているというのが現実です。最も大きなものがコストについての問題です。カーボンニュートラルを進めていこうとすると現実的にコストがかかります。それを、サプライチェーンやエンドユーザーも含めてどういう枠組みで回収し、誰が負担するのかという点は、議論を進めていく必要がありますが、まだ道半ばというところです。
技術面でも数多くの課題がありますし、規制対応や認証の問題などもあります。こうした課題を解決しながら推進するとなると、コストや原資をどう生み出すかということは、根本的な問題として重要になりますが、そこがまだクリアできていません。
MONOist 環境への取り組みは以前から多くの製造業で取り組んできました。今の状態は過去と比べてどういう点が異なるのでしょうか。
小林氏 従来の環境に対する活動は、コンプライアンス(法令順守)の領域にとどまっていました。例えば、工場で「汚水を出さない」や「大気汚染をしない」など、環境規制を守るという話でした。一部ではそれに加えて、企業のCSR(企業の社会的責任)として自発的に取り組む形で行われてきました。
それに対して現在は、カーボンニュートラルが、コンプライアンスだけの問題ではなく、より影響範囲が広がったと見ています。企業としてどう捉えて、外部にコミットメントし、責任を果たすかということが、ビジネス面での信頼度や取引条件などに影響してくるようになってきています。そのため、自社内でPDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを回しながら、社外に評価してもらうように変わってきました。
デンソーは環境情報開示システムを提供する国際的な非営利団体であるCDP(Carbon Disclosure Project)から、気候変動と水セキュリティという2つのカテゴリーでAスコアを獲得していますが、そういう評価をしっかり獲得していかないと投資家などから問題視されるようにもなってきています。環境関連情報に対するステークホルダーが増えたという印象です。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.