デジタルを駆使できるエンジニアを育てるには:3D設計の未来(14)(2/2 ページ)
機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第14回は「デジタルを駆使できるエンジニアの育成」について、筆者の考えを述べる。
企業の実態
かつて、日本は「Japan as No.1」といわれていた時代がありました。おそらく、デジタルネイティブ世代の人たちが知らない時代です。筆者もいくらかはこの時代に関わっていたかもしれませんが、それよりも、日本から韓国、台湾、中国、アジア周辺諸国へと半導体や液晶パネルの生産拠点が移っていく様子や、産業機械分野で日本以外の海外メーカーが数多く市場参入して勢いが増す様子を、複雑な気持ちで眺めてきました。
このような環境変化の中で、品質/コスト/納期の厳しい要求を受けるようになると、より一層の業務効率化が求められるようになっていきます。その結果、仕事の中で何でも経験できた(たくさん経験を積めた)時代から、効率化の名の下、分業化が一気に進んでいきました。設計現場もこの分業化により、経験する機会が極端に減っていったように思います。それは設計部門だけの閉じた話ではなく、例えば、図面の不具合を調達部門から指摘され、その内容について議論するといったケースも少なくなっていきました。
また、人材教育という側面で見ても、特に中小企業では、スキルアップを名目に社外教育を受けるハードルは大手企業よりも高く、時間確保が難しい状況にあると感じています。昔のように“業務の中で学ぶ”といった考え方もありますが、今や教える方も、教わる方も時間がなく、体系的にスキルを磨くことが難しくなっています。
そうした背景からか、最近では、答えをすぐに求めたがる傾向が強まっているようにも感じます。設計を極めるには、設計領域以外のことも知る必要があります。急がば回れではありませんが、すぐに答えを求めるのではなく、アナログ的な知識にも目を向けながら、ある程度腰を据えて向き合う必要があります。インターネットやSNSから手軽に得られる知識だけでは不十分だと筆者は考えます。
企業には英知がある
そうはいっても、学生のように集中的に学ぶ時間もありませんし、現場では教える方も、教わる方も忙しい状況です。ただ、企業の中には、教育現場にはない、エンジニアや間接部門を含めた多くの人材の、膨大な知識や経験が蓄積されています。中小企業であっても、高度な技術力で大手企業や世界と対等に戦っている企業もたくさんあります。そうした技術力は、これまでに蓄積されてきた知識や経験、ノウハウに基づくものです。
ただ、ここまで説明しても皆さんの本音は「設計以外の業務も理解すべきなのは分かるけど、時間がないものはどうしようもない」といった思いでしょう。そこで筆者が提案したいのは、既存の仕組みをデジタルに置き換えるというアプローチです。
- 仕組みをデジタルに置き換える
- 設計部門以外の仕事もデジタルで体験する
- 情報もデジタルですぐに利用できるようにする
- 属人的なアナログ情報のデジタル化
- 今あるデジタルデータの見える化
今もなお、エンジニアにとってモノづくりの一連の流れを体験することは、理想的だと考えますが、その時間が確保できないのであれば、デジタルを活用して時間や機会を創出すべきです。まさに、デジタルネイティブが得意とするところではないでしょうか。社内の英知をデータ化して活用しやすくしたり、かつて工場内で「ワイガヤ」といわれていたようなコミュニケーションの場をITツールに置き換えたりなど、あらゆる情報がデジタルですぐに利用できるようになれば、諦めていた学ぶための時間や機会の創出が可能になると筆者は考えます。
最終回となる次回は、具体的にどのような世界がデジタルによって実現できるのかを、筆者が注目しているデジタルツールを交えながら紹介したいと思います。 (次回へ続く)
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