4年目を迎えたパナソニックの「PX」、業務プロセスの変革が着実に進む:製造マネジメント インタビュー(2/2 ページ)
パナソニックHD 執行役員 グループCIOの玉置肇氏が合同取材に応じ、同氏がけん引役を務める同社のプロジェクト「PX(パナソニックトランスフォーメーション)」の推進状況について説明した。
調達BCPシステムの進化で能登半島地震からの製品供給網回復を短期間で実現
7つの原則ではデータ利活用も項目の一つに挙げている。大きく成果が出つつあるのがエレクトリックワークス社の電材事業で、各現場にAIを実装してデータを蓄積し活用する事業モデルの構築が進んでいるという。「特に、有事でも供給を途切れさせない製品供給力を実現する調達BCPシステムの進化によるSCMのDXが可能になったことが大きい。災害対応からの復旧では電材が必要不可欠だが、2024年1月の能登半島地震では72時間という短期間で製品供給網を回復することができた」(玉置氏)。
人材育成も7つの原則の項目の一つになっている。人材部門との連携で社内から変革人材を公募し、56人の「PXアンバサダー」が活動しているという。このPXアンバサダーは副業に位置付けられており、応募者のほとんどが非情報システム部門の所属だという。
PX事例を公募する「第1回現場PXコンテスト」を開催し、全社から550件の応募があった。2024年9月には、第1位の賞金が100万円という優秀事例の表彰も行っている。
PXと関わるパナソニックグループの先進的な取り組みでは、他社に先駆けたChatGPTの導入がある。事業会社であるパナソニック コネクトが2023年2月に全社導入したことが発端となったものの、そこから遅れることなく2023年4月には国内従業員約9万人への一斉導入に踏み切っている。同年7月には海外に向けて欧州と中国以外への約17万人に展開、GDPRなどへの対応が必要だった欧州の約18万人にも2024年10月に展開している。
ChatGPTなどLLM(大規模言語モデル)の社内活用で重視されるRAG(Retrieval Augmented Generation)の環境構築と試行も2023年度後半から14ある全事業部門から71テーマの要望があり取り組みを進めているところだ。ストックマークとの協業により開発を進めている1000億パラメータの独自日本語LLM「Panasonic-LLM-100b」や、ソフトウェア開発におけるGitHub Copilotの活用など、技術部門との協業によりAI活用促進を加速させている。
PXの発表段階から重視している情報システムの変革でも、各事業会社で共通化によるコスト抑制が可能な領域と、個社が専鋭化して顧客への価値提供を最大化する領域の組み合わせが可能なハイブリッドプラットフォームをクラウドベースで拡大している。情報システム部門自身でも、12の事業会社のCIOが参加して毎月開催するCIOフォーラムを通して、経営×ITの議論の常態化や、IT人材類型に基づいてグローバルIT要員4181人の類型の可視化、アジャイル開発の実践によるワークスタイル変革などを進めている。
2024年度から始まったPX2.0の成果については、パナソニック エナジーの米国ネバダ工場におけるスマートファクトリーを、現在建設中のカンザス工場に横展開している事例や、家庭向けコンシェルジュサービス「Yohana」などを挙げた。
玉置氏は4年目に入ったPXの取り組みについて「PXという名前がグループの国内外で浸透していることが最も大きな成果だと感じている。PXの7つの原則の中で『業務プロセスを絶えず進化させ競争力の源泉とする』という項目があるが、これがDNAとして組み込まれPXが当たり前になることでPXの目的を達成できるのではないかと思う」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- パナソニック新CIOが目指すPXとは、情シス部門を歴史と伝統の呪縛から解き放つ
パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)が、同社グループで推進しているDXプロジェクト「PX(パナソニックトランスフォーメーション)」について説明。同社 グループCIOの玉置肇氏は情報システム部門における「歴史と伝統の呪縛」について指摘するとともに「まずは情報システム部門の社員を幸せにする」と述べた。 - パナソニックHDはなぜ“危機的状況”なのか、楠見氏が語るその理由
パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏は報道陣の合同インタビューに応じ、中期経営目標の最終年度となる2024年度の取り組みや、現在のそれぞれの事業の状況について説明した。本稿ではその中で「危機的状況の解釈」についての質疑応答の内容を紹介する。 - 環境とくらしの2本柱でR&Dを、パナソニックHDのCTOが語る新技術開発の現状
パナソニック ホールディングスは2023年5月26日、同社 執行役員 グループCTOである小川立夫氏への合同取材に応じた。同氏による技術戦略の説明や、報道陣との質疑応答の内容を抜粋して紹介する。 - 生産性向上だけじゃない、パナソニックコネクトがChatGPTを全社導入した理由
世界中で話題の「ChatGPT」。国内企業で早期に全社導入を決定した1社がパナソニック コネクトだ。ChatGPT導入に至った背景や活用の可能性について聞いた。 - パナソニックコネクトの3階建て構造改革は8割まで進捗、今後も力強く迷いなく推進
パナソニック コネクトは、前身であるコネクティッドソリューションズ(CNS)社時代から積み重ねてきたさまざまな取り組みの成果や、2022年4月1日付に発足した事業会社として進める今後の方針などについて説明した。 - モノづくりの知識を身に付けた生成AI、パナソニックHDが技術承継などで活用へ
パナソニック ホールディングス(パナソニックHD)とストックマークは、パナソニックグループ専用の大規模言語モデルの開発で協業する。パナソニックグループの社内データを追加事前学習させた「Panasonic-LLM-100b」を開発し、設計や製造などのモノづくり業務において、自然言語でのやりとりで業務支援を行えるような仕組み構築に取り組む。