パナソニックHDはなぜ“危機的状況”なのか、楠見氏が語るその理由:製造マネジメント インタビュー
パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏は報道陣の合同インタビューに応じ、中期経営目標の最終年度となる2024年度の取り組みや、現在のそれぞれの事業の状況について説明した。本稿ではその中で「危機的状況の解釈」についての質疑応答の内容を紹介する。
パナソニック ホールディングス グループCEOの楠見雄規氏は報道陣の合同インタビューに応じ、中期経営目標の最終年度となる2025年3月期(2024年度)の取り組みや、現在のそれぞれの事業の状況について説明した。本稿では「危機的状況の解釈」と「車載事業や環境への取り組み」についての質疑応答の内容を紹介する。
なぜ楠見氏は「危機的状況」と捉えているのか
―― 2024年3月期(2023年度)は純損益だけを見ると過去最高益だったが、2024年5月17日の中期戦略発表の場では“危機的状況”という認識を示した。改革が必要だった数年前に戻ったという感覚か。
楠見氏 以前の津賀体制で改革を断行した時は、事業構造的に劣後となっていたものが数多くあったが、今はそれに比べて構造的に劣後となっていた事業については少なくなってきている。ただ、利益は出ているものの、それが競合に対して優れているかというとそうではないものもある。十分な営業利益が出せていない時に、それを打開するような思い切った手が打てていない事業が数多く残されている。そこに危機感を持たなければならない。
もちろん、市場環境などの問題など避けようがない制限が生まれている場合もあるが、条件がそれほど厳しくなくても結果が出ていない事業もある。その場合はその事業の経営のやり方が悪いということになる。きっちりとした経営ができていれば業界のトップ水準の利益を出せるはずで、そういう認識を徹底して定着させる。事業会社制となったが、実際に事業を動かしているのはその下の事業部で、そのレイヤーが危機感を持って経営を行っていく必要がある。内外でそういう目線を持つことが重要だと考えている。
社内にまん延する「危機感の欠如」を一掃
―― “危機的状況”という認識には驚いた。どういう点でギアチェンジを進めるのか。
楠見氏 基本的には誰が見てもギアチェンジが必要な事業については既に手を打てており、さまざまな事業で具体的な検討も進んでいる。しかし、現在のパナソニックグループを見渡すと、そういう状況でも合わさると、期待される収益性に近づかない。こうした状況が“危機的状況”だということだ。上場企業として、PBR(株価純資産倍率)が1倍を大きく割れるような状況は危機的だと言わざるを得ない。それぞれの事業1つ1つが現状維持ではなく収益性を高める取り組みを必死で行っていかないと全体が上がってはいかない。そのため、新しい中期計画では、ROIC(投下資本利益率)と事業別WACC(加重平均資本コスト)による管理を徹底することを訴えた。
2024年度はこの経営指標に対し「どう変えていくか」を前半で議論した上で、危機感を醸成しさまざまな取り組みを実行に移していく。危機感にもいろいろな危機感があるが、競合に対して売り上げで勝っていても利益で負けていては、事業を継続していく中で最終的には負けることになる。正しい立ち位置の把握と危機感の醸成が必要になる。
また、各事業共通の課題として、労働生産性があると考えている。これは全てにおいて高めていかなければならない。現在もPX(パナソニックトランスフォーメーション)などの取り組みを推進し、生成AIの活用などにも取り組んでいるが、こういう取り組みで生まれる余力をどのように活用するか、何に振り向けるかを考えて、事業の効率性を高め、新たな価値創出に取り組んでいく。
―― 構造改革を何度も繰り返す中で“危機的状況”についても「またか」という印象を持っている。その要因についてはどのように考えているのか。
楠見氏 “危機的状況”といっても危機感を持って変わってきた現場も数多く生まれてきたのも事実だ。ただ、トータルとしては数字としてつながっていない。そこが課題だと考えている。そして、その要因については繰り返しになるが、危機感の欠如だと考えている。かつてのパナソニックグループは、競合に少しでも負けているだけで高い危機感を持ち、それを乗り越えるために必死になっていた。しかし、いつの間にか「赤字でなかったら問題ない」などの意識がまん延するようになっている。
その要因がどういうところにあるかを考えると、目標を超えることができなった事業に対してクールに手を入れることができなかったという点がある。もちろん極端に悪い事業については手を打ってきたが、赤字ではないが目標には届いていないような中途半端に悪い事業については十分な手を打ってこなかった。そこを変えていくことが必要だと考えている。
もちろん社内でも「今まで問題視していなかったのに今になってなぜそういうことを言うのか」というような反対の声はある。しかし、厳しくすべきところは厳しくしていかなければ正しい危機感を醸成することはできない。経営責任者というのは、人とお金を預かっている立場で、そこが期待された数値を示せていないのに危機感を持たないということはあり得ない。社外からも「危機感が足りていない」という声ももらっており、健全な危機感をいかに醸成できるかがポイントだと考えている。
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