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米国の医療データ標準化で広がる2次利用とAI海外医療技術トレンド(111)(1/4 ページ)

本連載第91回で、米国の研究開発領域におけるアプリケーションプログラミングインタフェース(API)やデータの相互運用性標準化に向けた動きを取り上げたが、その後、臨床現場における医療データ流通やAI利用が本格化している。

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 本連載第91回で、米国の研究開発領域におけるアプリケーションプログラミングインタフェース(API)やデータの相互運用性標準化に向けた動きを取り上げたが、その後、臨床現場における医療データ流通やAI(人工知能)利用が本格化している。

⇒連載「海外医療技術トレンド」バックナンバー

米国保健福祉省が改正版医療データ相互運用性最終規則を施行

 本連載第103回で触れた米国保健福祉省(HHS)国家医療IT調整室(ONC)の「医療データ、技術、相互運用性: 認証プログラムの更新、アルゴリズムの透明性、情報共有(HTI-1)」最終規則は、2024年2月8日に施行された(関連情報)。

 このHTI-1最終規則は、以下のような目的を掲げている。

  • 21世紀治療法の実装:
    • 電子健康記録(EHR)報告プログラム
    • 特別な労力なく、電子医療情報(EHI)へのアクセス、交換、利用を可能にするAPI
    • 情報ブロッキングを構成することのないリーズナブルで必要な活動
  • バイデン−ハリス政権の大統領令の目標達成
    • 大統領令第13994号(COVID-19へのデータ駆動型の対応と将来に重大な結果を招く公衆衛生の脅威)(関連情報
    • 大統領令第13985号(連邦政府を通じた人種的平等と恵まれないコミュニティ支援の促進)(関連情報)および大統領令第14091号(連邦政府を通じた人種的平等と恵まれないコミュニティー支援のさらなる促進)(関連情報
    • 大統領令第14110号(人工知能の安心、安全で信頼できる開発と利用)(関連情報
  • 医療ITの活用と相互運用性の促進
    • 経済的および臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律(HITECH法)
    • 相互運用性の促進
    • ONC医療IT認証プログラム

 医療AI政策の視点からは、「バイデン−ハリス政権の大統領令の目標達成」の「大統領令第14110号(人工知能の安心、安全で信頼できる開発と利用)」(関連情報)に関連して、「アルゴリズムの透明性」が追加された。図1は、HHS全体の医療AI政策における医療IT調整室(ONC)と、公民権室(OCR)や食品医薬品局(FDA)との役割分担を示したものである。

図1
図1 米国保健福祉省(HHS)全体の医療AI政策におけるONCの役割[クリックで拡大] 出所:U.S. Department of Health & Human Services「HTI-1 Final Rule Overview」(2024年1月18日)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 本連載第65回で触れたように、米国連邦政府は、オバマ政権以降、「2010年政府業績評価(GPRA)現代化法」(関連情報)の下で、組織横断的な「クロスエージェンシー・プライオリティ(CAP)」目標を柱とする行政デジタルトランスフォーメーション(DX)施策を推進してきた。大統領令に呼応した医療AI促進政策においても、HHSは、省内各部局の枠を超えた連携/調整機能を重視する姿勢を示している。

データ駆動型医療AIを促進する米国保健福祉省の組織改編

 その後2024年7月25日、保健福祉省は、技術・サイバーセキュリティ・データ・人工知能(AI)戦略および政策機能の簡素化と強化を目的として、国家医療IT調整室(ONC)、長官補室行政担当(ASA)、戦略的準備・対応管理局(ASPR)に渡る組織改編を行ったことを発表した(関連情報)。組織改編の概要は以下の通りである。

  • ONCは、長官補室技術政策担当/国家医療IT調整室(ASTP/ONC)に名称を変更する
  • HHS全体のチーフテクノロジーオフィサー(CTO)、チーフデータオフィサー(CDO)、チーフAIオフィサー(CAIO)など、技術・データ・AI政策および戦略に関する監督機能を、ASAからASTP/ONCに移管する
  • サイバーセキュリティに関する保健医療セクター/連邦政府間の官民連携の取組(405(d)プログラム)をASAからASPRに移管し、既にASPRの重要インフラストラクチャ保護室に位置付けられたその他の保健医療セクターのサイバーセキュリティ活動に参加し、保健福祉省の医療サイバーセキュリティに対するワンストップショップアプローチを進化させる

 その上で、ASTP/ONCはチーフテクノロジーオフィサー室を設置し、チーフAIオフィサー室(OCAIO)、チーフデータオフィサー室、新たなデジタルサービス室などに対して、保健福祉省レベルおよび連邦政府全体レベルの調整役を担うとしている。

 他方、チーフAIオフィサー室(関連情報)は、本連載第71回で取り上げた「HHS AI戦略」(関連情報、PDF)をベースに、以下のような業務に注力するとしている。

  • 保健福祉省向けのAI政策と戦略を設定する
  • HHS内部におけるAI利用のための内部ガバナンス、政策、リスク管理アプローチを確立する
  • 保健福祉サービスセクターにおけるHHSのAIアプローチを調整する
  • 省全体に渡るAI技術およびツールの安全で適正な利用をサポートする
  • AIに関連する人材およびトレーニング活動を調整する

 また、チーフデータオフィサー室(OCDO)(関連情報)は、本連載第103回で取り上げた「2023〜2028年HHSデータ戦略」(関連情報)をベースに、以下のような業務に注力するとしている。

  • データガバナンスおよび政策策定を継続的に監督する
  • データリテラシーおよびデータ人材イニシアチブを主導する
  • HHSデータ戦略を管理する
  • データの協力関係および交換をサポートする
  • 省の戦略的資産として、HHSのデータを管理する

 参考までに、図2は、新たな長官補室技術政策担当/国家医療IT調整室(ASTP/ONC)の組織図を示している。

図2
図2 長官補室技術政策担当/国家医療IT調整室(ASTP/ONC)の組織図(2024年7月25日)[クリックで拡大] 出所:U.S. Department of Health & Human Services「About ASTP/ONC」(2024年7月25日更新)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 なおASTP/ONCは、今回の組織改編に合わせて、人材募集活動を行っている(関連情報)。ただし、AIやデータサイエンスの専門人材の確保は、民間企業だけでなく医療行政機関にとっても、鬼門となっている。

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