米国のヘルスデータ研究を支えるAPI/相互運用性の標準化:海外医療技術トレンド(91)(1/3 ページ)
本連載第61回で、COVID-19対応を契機とするクラウドネイティブなAPI連携の導入について取り上げたが、米国の研究開発領域ではAPIやデータの相互運用性標準化に向けた動きが本格化している。
本連載第61回で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応を契機とするクラウドネイティブなAPI連携の導入について取り上げたが、米国の研究開発領域ではAPIやデータの相互運用性標準化に向けた動きが本格化している。
消費者主導型のヘルスデータ相互運用性標準化に向けた取組
本連載第65回で触れたように、米国保健福祉省(HHS)傘下の国家医療IT調整室(ONC)は、2020年10月30日、医学研究の拡大と新たな医薬品・医療機器の認可の迅速化を目的とする「21世紀医療法」(2016年12月制定)(関連情報)に準拠した「2020-2025年連邦医療IT戦略計画」(関連情報、PDF)を公表している。
その後ONCは、国立衛生研究所(NIH)と連携して、急速に進化する電子保健医療データエコシステムにおけるAPIやアプリケーションを利用した消費者主導型データ交換の展望を理解するために、患者代表や消費者団体へのインタビューを実施し、2020年11月に「科学的発見に向けて加速するAPI:消費者の視点」(関連情報)を公表している。
この報告書では、消費者にとって、APIやアプリケーションの利用における共通の動機付け要因として以下の3点を挙げている。
- 健康状態や状況で、状態を管理する大容量または重要なタイプの保健医療データを含む
- 希少性、遺伝的、終末期またはその他の健康状態で、治療や治癒に関する研究に寄与できるデータを含む
- 消費者または消費者の介護者の負担を軽減するために、技術を利用して保健医療情報を組織化し、適用することに対するニーズまたは強い関心
そして、APIやアプリケーションを利用して、自分の保健医療データにアクセスし、利用/共有する強いニーズを持った個人を以下の5つに分類している。
- 1)希少性疾患や終末期疾患を管理する患者
- 2)慢性疾患や遺伝性疾患を管理する患者
- 3)年齢に関連する状態を管理する患者や介護者
- 4)小児患者を管理する親権者
- 5)行動保健やメンタルヘルスの状態を管理する患者や介護者
なお、HHSが2020年3月に公表した「国家医療IT調整室(ONC)21世紀治療法最終規則(ONC規則)」 (関連情報)では、米国相互運用性向けコアデータ(USCDI)標準規格に準拠して、データへのアクセスや提示、交換を実現できるLH7-FHIR(Fast Healthcare Interoperability Resources)標準規格をベースとするAPIを採用している。
この報告書では、価値の高いAPIやアプリケーション内にあるデータの特性として、以下の4項目を挙げている。
- 1)相互運用性
- 2)詳細性
- 3)正確性
- 4)即時性
表1は、消費者にとって価値の高いAPIやアプリケーション内にあるデータの特性を項目ごとに整理したものである。
表1 価値の高いAPIやアプリケーション内にあるデータの特性[クリックで拡大] 出所:Office of the National Coordinator for Health Information Technology 「Accelerating Application Programming Interfaces for Scientific Discovery: Consumer Perspectives」(2020年11月)を基にヘルスケアクラウド研究会作成
次に、消費者の間で、APIやアプリケーションに対する理解や認識を高める戦略の優先項目として、以下の4点を挙げている。
- (1)信頼性
- (2)コンセント
- (3)非識別化され、集約されたデータを共有するためのメカニズム
- (4)データに基づくソリューションへの参加
これらを踏まえて表2は、3つの消費者情報ソースごとにベネフィットと課題を整理したものである。
表2 消費者の情報ソースのベネフィットと課題[クリックで拡大] 出所:Office of the National Coordinator for Health Information Technology (ONC) 「Accelerating Application Programming Interfaces for Scientific Discovery: Consumer Perspectives」(2020年11月)を基にヘルスケアクラウド研究会作成
さらに、プライバシーとセキュリティの要因に関連して、報告書は、現行のコンセントおよびユーザーの同意取得手法が、適切に消費者に周知するには不十分である点や、コンセントなしに保健医療データが非識別化/販売/再利用される範囲を、消費者が認識していない点を指摘している。
その上で、消費者の信頼性を構築する手法として、以下の5点を挙げている。
- (1)簡潔で直接的である
- (2)どの特定の保健医療データが求められるか、関与する研究パートナー、データの目的と利用を消費者に周知する
- (3)データがサードパーティーに提供されるたびに、消費者に対してデータのコンセントをとる
- (4)プライバシーとセキュリティの保護に関する厳格なプロトコルを設定する
- (5)データを提供する消費者に対して、データの金銭的価値を割り当てる
報告書では最後に、コンセントモデルの改善とAPIやアプリケーション技術の進化が、研究およびその他の目的で利用可能な消費者データの量を拡大させるのに重要な役割を果たし得るとしている。
本連載第76回で触れたように、消費者とのコミュニケーションについては、医療機器サイバーセキュリティの分野で、米国食品医薬品局(FDA)が積極的に取り組んでいる。医療機器から収集、蓄積したデータをAPI/アプリケーションを介して2次利用しようとする企業にとっても、コンセントモデルの開発と運用は最重要課題である。
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