絶縁体のポリオキソメタレートを白金多核錯体でつなぎ、半導体化に成功:研究開発の最前線
岐阜大学は、絶縁体のポリオキソメタレートを白金多核錯体でつなぎ、電子的に相互作用させることで、電気を流すことに成功した。相互作用により作成した非局在電子の伝導パスは、電気伝導性が向上している。
岐阜大学は2024年8月8日、絶縁体のポリオキソメタレート(POM)を白金多核錯体でつなぎ、電子的に相互作用させることで、電気を流すことに成功したと発表した。東京大学との共同研究による成果で、相互作用により作成した非局在電子の伝導パスは、電気伝導性が向上し、導電率10−6Scm-1の半導体になることが分かった。
POMは、固体酸化物を抜き出した分子で、高原子価の金属が酸素で連結した多核金属錯体でもある。絶縁体のため、電気伝導性が低く、電気をほとんど通さないという性質を持つ。
研究では、POMを一次元状の白金多核錯体と混ぜることで、両者が交互に並んだ集積体となり、通電するパスを形成することを発見した。具体的には、Keggin型の{PMo12}3−と白金四核錯体の{Pt4}4+を混合したところ、−{PMo12}−{Pt4}−のように交互に並んだ一次元集積体が得られた。{PMo12}中の架橋酸素p軌道と{Pt4}中の白金dz2軌道は、距離3.42Aで近接し、−{PMo(+5.83)12}−{Pt(+2.25)4}−の混合原子価状態となった。常温の導電率は1.0×10−8S/cmで、0.60eVの活性化エネルギーを持つ半導体になることが確認できた。
POMは負電荷により還元しやすく、一次元状の白金多核錯体はPOMと正電荷を持ち、酸化しやすい。この2つは相性よく会合し、相互に酸化還元して混合原子価状態となり、集積化することが分かった。
例えば、Keggin型の{PMo12}3−と白金−パラジウム三核錯体の{Pt2Pd}2+を混ぜると、−{PMo(+6)12}−{Pt2Pd(+2.33)}−となり、Dawson型の{P2Mo18}6−と白金四核錯体の{Pt4}4+を混合すると、−{P2Mo(+6)18}−{Pt(+2.25)4}−となる。常温時の導電率はそれぞれ7.0×10−8S/cm、3.0×10−7S/cmで、電気がより流れやすくなることも分かった。また、光学バンドギャップは0.6〜1.2eVで、近赤外光を多く吸収することも判明した。
さまざまな派生体のあるPOMと、種類が豊富な一次元状の白金多核錯体を組み合わせることで、多様な集積体を作製可能になる。今後、バンドギャップ制御や高伝導体、電池や触媒への応用が期待される。
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