挑戦は“わくわく”から、ルービックキューブ世界最速ロボ開発秘話(特別編):三菱電機ギネス世界記録への道
「パズルキューブを最速で解くロボット」として、三菱電機の若手メンバーが開発したロボットの記録がギネス世界記録に認定された。彼らの挑戦をどのように見守ったか、同社 コンポーネント製造技術センター長の吉村裕司氏に聞いた。
「パズルキューブを最速で解くロボット」として、三菱電機のコンポーネント製造技術センターに所属する若手メンバーが開発したロボット「TOKUFASTbot(TOKUI Fast Accurate Synchronized motion Testing Robot)」がギネス世界記録に認定された。
この挑戦のきっかけになったのが、同センターで進めていた「わくわくプロジェクト」だ。彼らの挑戦をどのように見守ったか、コンポーネント製造技術センター長の吉村裕司氏に聞いた。
2年前に始まった「わくわくプロジェクト」
MONOist わくわくプロジェクトとはどのような取り組みなのでしょうか。
吉村氏 いろんな失敗をするかもしれないけど、失敗を恐れずに“わくわく”するようなこと、新しいことにどんどんチャレンジしていこうという思いを込めて、2年前に始まった取り組みだ。
例えば、“こんなツールを作ってみたら設計、開発が効率化するかもしれない”など、開発を本格的に始める前の技術的な味見、リサーチなど、従来ならなかなか言い出しにくいような案件への挑戦を後押しするようなプロジェクトとなっている。
年間10件以上の提案があるが、全てがTOKUFASTbotのようなレベル、規模感ではなく、とにかくささいなことでもセンターの皆に挑戦してもらいたいというのが目的だ。
MONOist コンポーネント製造技術センターとはどのような組織なのでしょうか。
吉村氏 コンポーネント製造技術センターでは、三菱電機のキーコンポーネントといわれるものを扱っている。
研究部門としては、パワーデバイスやパワーモジュールの開発、原価低減、生産性改善を行うパワーデバイス・モジュール技術推進部と、今回のTOKUFASTbotを開発したメンバーが所属していた、モーター関連製品の開発と生産技術開発を行うモーター製造技術推進部、さらにモーターを駆動するパワーインバーター、制御機器を統合化した製品設計と生産技術開発を行う統合化技術推進部の3つがある。
そして、人材の採用、育成や活動計画の策定、管理などを担う企画部があり、わくわくプロジェクトの企画運営も行っている。
3つの研究部門のメンバーから“こういうことをやってみたい”という提案を受け、企画部も交えて審議する。メンバーの後押しが目的のため、なるべく却下しないようにしている。進捗状況なども企画部の方で取りまとめている。特に報告義務などはないが、案件の規模はさまざまなため、必要に応じてフォローしている。
私自身、まだ2024年4月に着任したばかりであり、センターのみんなの意見を聞くために、まずコミュニケーションを取ることから始め、みんながどんなことをやっていきたいのか知っていきたい。
MONOist 自身で開発現場に何度も足を運んで、差し入れもしたと聞きました。
吉村氏 私が見に行った時はなかなか成功しなかったが、ギネス記録挑戦の前日に私の前で初めて成功した。それで“もう大丈夫だ”と思ったが、後から“実はその後も失敗があった”と聞いた。
今回の挑戦はいわばF1マシンのようなもので、“この人がルービックキューブを磨かないと色の認識がうまくいかない”などのような領域になっていた。本当に突き抜けたらそういう世界なのだろう。もう少しタイムは遅くてもいいから、毎回確実に色がそろえらえる“量産工程”のような世界もあるだろう。
最後は技術だけではなく、運や思いもあって成功した部分がある。そういうやりきる姿勢を見届けたいと思った。そこまで含めて、彼らにはやりきってもらったと思っている。
彼らがとても頼もしく見えたのと同時に私自身もドキドキした。当日も現場にいたが、1回目の挑戦で失敗した時も、彼らなら絶対にできると思っていたし、ギネス世界記録に認定されて本当に良かった。
MONOist 今後に向けた抱負をお願いします。
吉村氏 三菱電機ではカーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、安心・安全、インクルージョン、ウェルビーイングを注力する5つの社会課題として挙げている。
特にカーボンニュートラルに対してはパワーモジュールや高効率のモーターが欠かせない。他の製作所と一体となって足元の事業支援を行いながら、世界の動向を見極め、中長期的な先行開発を進めていきたい。また、三菱電機全体の生産技術者の育成にも取り組んでいく。
われわれとしても、突き抜けた開発を続けるのと同時に、それを上手に標準化して事業に展開し、稼ぐ力を付けるという両輪を回すことができるセンターにしていきたい。
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