3D CAD利用動向調査から考える導入/活用の進め方:テルえもんが見たデジタルモノづくり最前線(4)(2/2 ページ)
連載「テルえもんが見たデジタルモノづくり最前線」では、筆者が日々ウォッチしているニュースや見聞きした話題、企業リリース、実体験などを基に、コラム形式でデジタルモノづくりの魅力や可能性を発信していきます。連載第4回のテーマは「3D CADの導入と活用の進め方」です。
3D CAD導入を進めるために必要なこと
3D CAD導入を推進しようとする現場に対し、筆者はよく「3D CADは、電動ドライバーのような道具を導入するのとは違いますよ」と説明しています。電動ドライバーであれば、作業者に渡してすぐに使えるようになるでしょう。これまで手動のドライバーで力を入れてネジを締めていたのが、電動ドライバーの導入により作業が楽になり、効率もすぐに上がるはずです。しかし、3D CADの場合は購入して、すぐに使えるようになるわけではなく、その効果を得るには“きちんとした教育”が必要です。
同調査における「設計現場の課題解決に必要だと思うこと」の問いに対して、「人材教育/育成のための体制構築」を挙げている人が58.2%と半分以上の割合でした。多くの皆さんが人材教育/育成の重要性を強く感じているようです。
3D CADの導入は、ITシステムの導入と同じです。3D CADで作成した3Dデータは、作成した設計者だけが活用するものではなく、社内や社外の関係する人たちと共有し、活用してこそ、大きな効果を発揮できます。会社全体のプロジェクトとして、導入/運用の仕方を検討することが大切です。
また、3D CAD導入を検討する際、導入の目的を明確にしてください。導入前と導入後の姿をイメージし、どのような導入効果を期待しているのかを明確化します。そして、現在の業務プロセスの中に、どのように組み込まれるのか、誰の作業が、どのように変わるのかといった役割や期待についても明確にする必要があります。併せて、誰が評価を行い、継続的な運用を行うのか、いつ、どのタイミングで、どのような評価をするのかなどの運用についても明確化しておきます。
3D CAD導入を進める理由は、経営者的な視点、技術者的な視点、現場的な視点など、さまざまありますが、会社全体で話し合いを持ちながら、3D CADで作成した3Dデータ活用に取り組んでいく必要があります。そのための人材の育成が必要不可欠です。
3D CADとうまく付き合うには、最初が肝心です。3D CAD活用のメリットとデメリットをしっかりと理解し、業務プロセスを変えていくことも重要です。そのためには、3D CADに関する知識が不可欠になりますが、独学でマスターするのはやはり難しいものです。きちんとした使い方や活用法を知らないと「3D CAD=面倒なツール」になってしまう恐れがあります。講習会などを活用し、きちんとした教育を受けることをオススメしています。
さらに同調査の「今後、設計者に求められるスキル」に関しては、「基礎知識(設計、製図、解析、材料力学などの座学)」が70%以上を占めてトップ。次に「設計、製図力」「デザイン、開発力」が続いており、全般的に基本的な設計スキルの底上げに対する関心が高いように感じました。
3D CADにおいても“正しいモデリング作法を覚える”ことが、導入効果を引き出すための重要な第一歩です。設計のために基礎知識が欠かせないのと同じく、3D CADを活用して十分な効果を発揮するには、独学ではなく、きちんとした作法をマスターすること、そのための教育が必要です。
今回のまとめ
3D CADのメリットは、誰でも形状が理解できるという点です。そのメリットを生かし、現場でより分かりやすいモノづくりができるようになれば、現場の人たちもきっと喜んでくれるはずです。3次元の良さをしっかりと理解してもらい、不安を払拭(ふっしょく)する努力を惜しんではなりません。
3D CADなどの3次元ツールの導入を検討する際には、設備中心の考え方ではなく、人を中心に、人が喜ぶことをするという“モノづくりで最も重要なこと”を忘れることなく、ツール導入やプロセス改善を進め、全社を挙げての3Dデータ活用に取り組むべきだと考えます。設計者にとって働きやすい環境が構築できれば、その効果はより良い製品づくりにもつながり、人々の暮らしや社会もより豊かなものへと変わっていくはずです。
今回の調査における「将来の普及に期待しているテクノロジー」の項目では、AI(人工知能)や生成AIの関心が高かった他、リアルタイムシミュレーション、3Dプリンタ、デジタルツイン、VR/AR/MRなどが挙がっていました。これらを活用していくためにも、3D CADで3Dデータを作成することが重要です。
これから3D CADを導入する方、さらなる活用を考えている方にとって、本稿および本連載が参考になれば幸いです。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
小原照記(おばら てるき)
いわてデジタルエンジニア育成センターのセンター長、3次元設計能力検定協会の理事も務める。3D CADを中心とした講習会を小学生から大人まで幅広い世代の人に行い、3Dデータを活用できる人材を増やす活動をしている。また企業の困り事に対し、デジタルツールを使って支援している。人は宝、財産であると考え、時代に対応する、即戦力になれる人財、また、時代を創るプロフェッショナルな人財の育成を目指している。優秀な人財がいるところには、仕事が集まり、人が集まって、より魅力ある街になっていくと考えて地方でもできること、地方だからできることを考えて日々活動している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- Webブラウザで動作する3D CADに注目してみた
連載「テルえもんが見たデジタルモノづくり最前線」では、筆者が日々ウォッチしているニュースや見聞きした話題、企業リリース、実体験などを基に、コラム形式でデジタルモノづくりの魅力や可能性を発信していきます。連載第2回のテーマは「Webブラウザで動作する3D CAD」です。 - 脱2次元できない、3次元化が進まない現場から聞こえる3つの「ない」
“脱2次元”できない現場を対象に、どのようなシーンで3D CADが活用できるのか、3次元設計環境をうまく活用することでどのような現場革新が図れるのか、そのメリットや効果を解説し、3次元の設計環境とうまく付き合っていくためのヒントを提示します。 - どのCADツールを選ぶべきか!? 組織とCADの立ち位置を整理して考える
ソリッドワークス・ジャパンは2022年11月14日、年次ユーザーイベント「3DEXPERIENCE WORLD JAPAN 2022」を東京都内で開催した。ユーザー事例講演では、長野オートメーション 代表取締役社長の山浦研弥氏と、同社 設計技術部 メカ2グループの遠藤正浩氏が登壇し、「設備屋の3D CAD選定における理想と現実」をテーマに、3D CAD導入に向けた考え方や導入メリットなどについて紹介した。 - 製造現場で使うCADは製品設計部門と同じままでよいのか?
Hexagon Manufacturing Intelligence 事業部が主催したWebセミナー「製品設計から離れたCAD業務 川下工程で本当に必要とされるシステムとは?」の模様をダイジェストで紹介する。 - どのCADを使っている? 3D推進の状況は? ちょっと気になる隣のCAD事情
CADは設計現場に欠かせない重要なツールの1つ。今のCADに大きな不満はないが、もっと使いやすいCADはないか? リプレースするにしてもどこを重視すべきか? そもそも2D CADのままでよいのか? 最近業績を上げているあの企業は3D CADに切り替えたらしい……。「CAD利用動向調査アンケート」の結果を基に、そんな“ちょっと気になる隣のCAD事情”について紹介します。 - CAEを設計者に使ってもらうには?
「CAEユニバーシティ特別公開フォーラム2023」に登壇したサイバネットシステムの栗崎彰氏の講演「DX時代のためのCAE教育方法変化論」の模様を取り上げる。