時代の変化に対応できない企業は倒産前に輝くといわれているが:和田憲一郎の電動化新時代!(52)(3/3 ページ)
ビジネスの教科書によく出てくる「時代の変化に対応できない企業は倒産する前に一時的に輝く」という現象を思い出す。時代の変化に対応できなかった企業例として、イーストマン・コダックが挙がることが多い。同じことが日系自動車メーカーにも当てはまる恐れはないのだろうか。
(1)バーチャル発電所(VPP: Virtual Power Plant)としてのEV対応
中国のEV保有台数は2023年末で1500万台を超えた。また、自動車は一般的に走行している時間は5%といわれ、95%の時間は止まっているとされている。ということは、EVが数多く存在するならば、これを充電のみならず、エネルギーのバックアップ電源として活用しようとするのは自然の流れだろう。EVを自動車のみとして捉えるか、タイヤが4つ付いた大容量バッテリーを備えた「走るエネルギーデバイス」と見るかである。
2024年初め、「新エネルギー車と電力網との統合強化に関する実施意見」が国家発展改革委員会、国家能源局等により共同で提出された。内容としては、「新エネルギー車と電力供給網を接続し、情報とエネルギーの双方向システムを構築することで、新エネルギー車の電力負荷低減や電力貯蔵などの調整能力を強化する」ことが通知された。
また、「開発目標として2025年までに新エネルギー車と送電網の相互接続の技術基準を構築し、充電の変動料金制度を実施すること、2030年までに電力網に1000万kW級の電力調整機能を備える」としている。1000万kWとは、原子力発電所1基分の出力が平均100万kWであることから、10基分に相当する。
この通知により、中国は、EVの所有者は送電網に負荷がかかっていないときに車両を充電したり、公共スペースと私有地に双方向充電ステーションが設置され、EVのバッテリーより電気を送り返したりすることも可能となる。まさにバーチャル発電所(VPP)の考え方を国家レベルで実施する意図である。
しかし、現在の中国急速充電仕様GB/Tは充電仕様のみであり、双方向給電仕様はない。筆者の推測だが、CHAdeMO協議会が開発し、既に実用化している双方向給電プロトコルを、日中で共同開発した超急速充電規格ChaoJiにも採用し、この通知を実現しようとしているのではないだろうか。
なお、超急速充電規格ChaoJiは国家標準GB/T 18487.1-2023「電気自動車導電性充電器」として制定され、2024年4月から運用開始されている。
さらに、この一環と思われるが、2024年7月中国深セン市が、「エネルギー+データ」「電力+計算力」を基盤とする、巨大都市デジタル電力網を全面的に構築したと発表した。やはり、EVなども含めたエネルギーを一元管理し、デジタルトランスフォーメーションとして都市電力網の構築を目指す動きだろう。
EV普及が先行する中国がEVの持つエネルギーを送電網に組み込むことを考え始めたことは、早かれ遅かれ、欧米や日本にも影響を及ぼす。日本では、まだVPPは社会実装を目的とした検討を進める段階にある。EVが自動車としてのみならず、社会のエネルギーマネジメントの観点から考える場合、VPPに応じた表示や電力還元システムの構築などが求められるのではないだろうか。
(2)AIの飛躍的進化により、AI電気自動車が出現
EVの要素技術で言えば、バッテリー開発は一声10年といわれる。バッテリーの場合、基礎開発から少量生産を経て、大量生産まで長い期間を要する。全固体電池なども、まだかなりの期間を要するだろう。e-Axleなどは開発から量産まで3〜5年程度だろうか。一方、AIの発達は、一説には人間の進化以上に早いともいわれており、近年加速度的に進化している。
この急激なAIの進化によって、「エンドツーエンド(以下E2E)」と呼ばれる新技術が生まれてきた。つまり、カメラやLiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)などからのセンサー入力で得た情報を、ステアリングやブレーキ、アクセルの出力までAIで制御する考え方である。もともとテスラにより唱えられた方法だが、中国自動車メーカーなども巨額投資を行い戦略的に進めている。そのため、これまで自動運転システムが行っていた「認知」「予測」「判断」「操作」までもが、AIで制御することとなる。
そうなると、筆者の推測であるが、E2Eが進化するにつれ、米国自動車技術者協会(SAE)や国土交通省が定める「自動運転レベル分け」も近い将来変わってくるのではないだろうか。今回、E2E時代の自動運転レベル分けを考えてみた。
現在、レベル1は運転支援機能を表しているが、この機能そのものはレベル2に統合されていくだろう。またレベル2のハンズオフはこれまで運転者による監視を必要としていたが、E2Eによりさらに一段と進化して運転者は何もすることがなくなる。その場合、AIによるシステム監視に移行するのかが大きな議論となるだろう。
レベル3は、システムによる監視を行うものの、緊急時は運転者に運転操作を委ねることとなっており、現実的でないという声もある。そのため、ますますその存在意義が失われるだろう。
そして、E2Eの進化がレベル4の位置を大きく引き上げると予想する。レベル4のE2E搭載のEVは、完全自動運転とはいかないまでも、おおむね自動運転車の本命となるのではないだろうか。レベル5では、E2E搭載の完全自動運転車として、無人のクルマも出てくるだろう。結局、E2E搭載は完全自動運転車のみならず全てのレベルに影響を及ぼす。
以前、ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は、AIを搭載した無人のEV、つまり「AI電気自動車」が未来のクルマ社会を作り、エネルギー革命を先導すると考えていると述べた。そのような時代はまだ来ないと思っていたが、E2Eにより、AIが著しく進化することにより、EVも大きく変化していくのではないだろうか。
時代の変化に対応できない企業への懸念
今回、エンジン車からEVへの移行に関して、考慮すべき2つの視点について述べた。ここで1つの気付きがある。それは、VPPとしてのEV対応は、電力業界と自動車業界の連携や、都市もしくは国家レベルでの対応が必要となり、日本においては高いハードルとなる。
また、E2Eに対応した自動運転車の開発には、AIに対する高度な開発力が求められ、ソフトウェア定義車両(SDV)で出遅れている日系自動車メーカーにとっては重い課題でもある。
製造業としての観点が重要である一方、それに固執することで日系自動車メーカーが苦手とする国家レベルでのVPPや、進化するAIを活用したEVなど、米国や中国が得意とする分野で後れを取る可能性がある点が筆者の懸念である。
自動車という枠組みでビジネスを続けている間は良いが、突然より大きな変革が求められたとき、日系自動車メーカーの勢いが削がれ、競争力を失うことが懸念される。それは冒頭「時代の変化に対応できない企業は倒産する前に一時的に輝く」という現象について、日米の金利差が縮小し、歴史的な円安のメリットを享受できなくなった今、一気に収益が悪化し、日系自動車メーカーが次の時代において真の実力が問われることを示唆しているのではないだろうか。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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