有害な重金属イオンを選別し取り除く、新しい水環境浄化システムを開発:研究開発の最前線
京都大学ら国際共同研究グループは、水中の有害な重金属イオンを取り除く、新しい水環境浄化システムを開発した。設計した高分子材料は有毒イオンを選別して大量に捕捉でき、高集積化により効率的に水を浄化する。
京都大学は2024年7月31日、大阪大学、独ハイデルベルク大学との国際共同研究で、水中の有害な重金属イオンを取り除く、新しい水環境浄化システムを開発したと発表した
研究グループは、植物の細胞に含まれるタンパク質「ファイトケラチン」に着目。ファイトケラチンは、根から吸い上げた地下水に含まれる、カドミウム(Cd)などの重金属イオンを選択的に捕捉して液胞内に閉じ込め、有害イオンから植物を守る役割を担っている。
同研究では、ファイトケラチンが金属イオンと結合する際の官能基と同じものを合成高分子に組み込んだ。その結果、この合成高分子が持つカドミウムイオン(Cd2+)との結合能は、ファイトケラチンを上回ることが分かった。なお、カルシウムイオン(Ca2+)やマグネシウムイオン(Mg2+)との結合能はCd2+の約1万分の1と低く、ナトリウムイオン(Na+)やカリウムイオン(K+)とは結合しないため、選択的にCd2+のみを吸着できる。
この高分子材料1017分子を3ミリリットル(ml)の容積に超高集積化し、産業排水レベルの汚染水300mlを流したところ、1時間でWHOが定める飲料水レベルまでCd2+を除去できた。
従来の浄化技術では、水中の無害なイオンまで捕捉してしまい、有害イオンのみを標的として取り除くことは困難だった。安全な飲み水を供給できる同技術は、生物を超える水環境浄化システムとして、世界が抱える水資源問題に寄与することが期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- シリコンエッチングプロセスの触媒として使用できるGNRの製造法を開発
京都大学は、室温で酸素ドープ型グラフェンナノリボンを合成可能な、新しい炭素細線製造法を開発した。貴金属触媒や炭素系触媒を上回る触媒活性で、シリコンエッチングプロセスの触媒として使用できる。 - 分岐構造を持つPVAの合成成功、カギはホウ素
京都大学は、ホウ素の特性を活用することで、分岐構造を持つポリビニールアルコールの合成に成功した。新しい物性、分解性の発現や機能性材料への展開が期待できる。 - 3次元物質から2次元強誘電体の作製に成功、強誘電デバイスの開発に貢献
京都大学は、3次元物質の二酸化ハフニウムジルコニウムから、厚さ1nmの2次元強誘電体を作製することに成功した。数nmまで極薄化した3次元強誘電体からは困難とされていた、2次元物質を作製できた。 - リブ部分のみを発泡させ樹脂部品の軽量化と強度向上を実現する新たな発泡成形技術
マクセルは、マクセルの発泡成形技術「RIC−FOAM(Resilient & Innovative Cellular Foam)」を応用し、補強構造体であるリブのみを部分的に発泡させることで、軽量化と曲げ荷重による変形抑制およびきれいな外観を実現する新たな発泡成形技術を開発したと発表した。 - 世界最小レベルの特性オン抵抗の酸化ガリウムSBD、月産100万個の量産体制構築
FLOSFIAは、「TECHNO-FRONTIER 2023(テクノフロンティア2023)」で、独自の成膜技術「ミストドライ法」やこの方法を用いて結晶成長させた酸化ガリウムのパワーデバイスを披露した。