リチウムイオン電池の完全循環システムは構築できるのか:LIBリサイクルの水熱有機酸浸出プロセス開発の取り組み(5)(4/4 ページ)
本連載では東北大学大学院 工学研究科附属 超臨界溶媒工学研究センターに属する研究グループが開発を進める「リチウムイオン電池リサイクル技術の水熱有機酸浸出プロセス」を紹介する。第5回ではリチウムイオン電池の完全循環システム構築に向けた取り組みを取り上げる。
2-3-2 再生電池製作
合成された正極と作製された負極を組み合わせて、世界初の木質バイオマス由来グリーン負極と再生正極からなるLIBの開発/製造を行うべく、基礎検討を続けている。アウトカム目標として、市販のLMO系LIBと同程度の性能を発揮させるための正極活物質、負極材それぞれのプロセス改善指針を得る。クエン酸を浸出剤としたマンガン酸リチウム(LiMn2O4)の水熱酸浸出を試みた。
具体的には、浸出液と任意の酸化剤を添加し、所定時間反応させた。この際、必要に応じて水素イオン指数(pH)およびLiの濃度を調整した。その結果、LiMn2O4を単相で得られることが判明した。この応用として、水熱酸浸出により溶液中に取り出したイオンを、その割合を調整しながら条件を変えて水熱合成することで、水熱法による直接再生法が可能となると考える(図6)。
LIB正極材のリサイクルには、乾式精錬、湿式精錬に加え、直接再生法が提案されている。乾式精錬も、プロセス中に酸浸出を取り入れる必要があるため、酸浸出(湿式法)をベースとした精錬プロセスと、湿式法を全く用いない直接再生法の2つに大別できる。このプロセスを、プラスチックと照らして考えると、直接再生法は構成元素の結合をそのまま残すことから、マテリアルリサイクルに相当する。
それに対し湿式法は、LIBの正極材という構成元素を一度モノマー単位に、結合を開裂させるものであるため、ケミカルリサイクルに相当する。構造が劣化した正極材に対し、直接再生法では対応に限度があるため、最終的にケミカルリサイクルがそうであるように、原料から再度構造を構築し直す必要があり、そのためにも水熱プロセスは重要であると考えている。
3 まとめ
ここまで記載させていただいた通り、環境研究総合推進費(ERCA)を十分活用し、LIBの完全循環システムを構築するための検討を続けている。これまでの成果をベースに、水熱再生プロセスならびに水熱炭素化プロセスの両技術に対し、技術の原理検証に加え、循環システムとしてのプロセスをラボレベルで実証していきたい。
さらに、地域企業と密接に連携し、廃電池の回収ルートの確立も含め、LMO系やLFP系など、LIBの域内循環システムを開発したい。これにより、LIBの関連資源に対し、リニアエコノミーの構造にある現状から、域内外でのサーキュラーエコノミーの構造に変えることができないかと考えている(図7)。(次回へ続く)
筆者代表紹介
東北大学大学院工学研究科 附属超臨界溶媒工学研究センター 化学工学専攻 教授 渡邉賢(わたなべまさる)
東北大学大学院工学研究科附属超臨界溶媒工学研究センターにて、水熱・超臨界水を反応・分離媒体とした重質油改質、廃プラスチックリサイクル、バイオマス変換の研究を推進するとともに、超臨界二酸化炭素を反応・分離溶媒とした天然物からの有価物回収や二酸化炭素固定化反応に関する検討を進めている。化学工学会会員。The International Society of the Advanced Supercritical Fluid副会長。
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