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廃棄リチウムイオン電池から環境に優しくレアメタルを回収する水熱有機酸浸出LIBリサイクルの水熱有機酸浸出プロセス開発の取り組み(3)(1/2 ページ)

本連載では東北大学大学院 工学研究科附属 超臨界溶媒工学研究センターに属する研究グループが開発を進める「リチウムイオン電池リサイクル技術の水熱有機酸浸出プロセス」を紹介する。第3回では環境にやさしいクエン酸などを用いた水熱有機酸浸出の事例を取り上げる。

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酸浸出

 本連載の第1回に記載したことと重複するが、リチウムイオン電池(LIB)の金属を回収し再利用するために用いられるプロセスには、乾式精錬法、湿式精錬法、直接再生法がある。これらの回収プロセスにおいて、LIB正極材料に含まれる金属やその金属含有量のバランスを調整する必要があるため、廃棄LIBの正極材から金属を水溶液中に回収する、酸浸出プロセスが必須となる。

 従来の酸浸出プロセスは、過酸化水素(H2O2)やアスコルビン酸などの還元剤の存在下で、各種の無機および有機の酸を用いて100℃以下の温度で実施される。近年は、グリーン溶媒と同様の考え方で、無機酸と同程度の浸出効率でありながら反応装置の腐食や汚染が少ないことから環境にやさしい持続可能な酸として有機酸を用いたプロセスの開発事例が多い。

 なお、100℃以下の条件では、酸の種類に依らず3価のコバルト(Co)イオンであるCo3+など難溶性の遷移金属イオンを浸出させるためには価数を低減しなければならない。

 一例を挙げると、有機酸の1つであるクエン酸を用いた酸浸出プロセスでは、90℃の温度/30分間の条件でH2O2を加えずにコバルト酸リチウム(LCO、LiCoO2)系正極材活物質からコバルトを浸出させた場合の浸出効率は16%である。一方、H2O2を加えることで91%まで高めることができる(図1)[参考文献1]。しかし、有機酸濃度やH2O2がCo3+を効率的にCo2+に還元するために必要である他、より高濃度の酸が不可欠でこれらによりコストと環境負荷が大きくなってしまう[参考文献1]。

水熱酸浸出

 本連載の第2回で説明したように、大気圧以上の環境を構築できる装置を使用すれば100℃以上でも水は液体状態(水熱条件)を保てる。この水熱条件の水は常温常圧の水と比較してH+およびOH-の濃度が高く、条件によってはこれらの濃度が常温高圧の水の約30倍にもなる。このような性質を有する水熱条件の水では反応温度の増加により反応速度が向上する他、無機物の溶解性も向上できる可能性がある。この可能性を追求すべく筆者の研究室(以下、当研究室)では有機酸の1つであるクエン酸を浸出剤とした水熱酸浸出を世界で初めて実施した。

 図1に示す、クエン酸を用いた酸浸出プロセスの事例ではLCOからリチウム(Li)とCoの浸出を行った。その結果、90℃ではH2O2がなければCoの浸出率は30分間の反応でも16%に止まるのに対し、水熱条件(150℃や200℃)では10分間の反応時間にもかかわらずクエン酸のみで9割近くCoを浸出させることができることを発見した。

 この結果を受け当研究室では、世界的に進む持続可能な社会への移行に伴い需要量と廃棄量の増加が見込まれるLIBの正極材料を低い環境負荷で連続的に再利用できるリサイクルプロセスの構築を目的に、有機酸や水熱条件などを用いた酸浸出のプロセス「水熱有機酸浸出」の研究を進めている。具体的には、回分式反応機と流通装置を用いるとともに浸出剤として有機酸を活用した水熱酸浸出をさまざまなLIB正極材料に適用している他、水熱酸浸出で生じる金属元素の沈殿単離の可能性を追求している。

図1 クエン酸を用いたLCOからのLiとCoの酸浸出
図1 クエン酸を用いたLCO(LiCoO2)からのLiとCoの酸浸出[クリックで拡大]

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