中温域で高いプロトン伝導度と安定性を示す新規プロトン伝導体を発見:研究開発の最前線
東京工業大学は、中低温域で高いプロトン伝導度を示す、新しい六方ペロブスカイト関連酸化物を発見した。水の取り込み率は完全水和の100%で、300℃付近の中温域で高い化学的安定性を兼ね備えている。
東京工業大学は2024年7月8日、中低温域で高いプロトン(H+:水素イオン)伝導度を示す、新しい六方ペロブスカイト関連酸化物を発見したと発表した。
研究グループは2020年に、化学置換なしで比較的高いプロトン伝導度を得られる六方ペロブスカイト関連酸化物のBa5Er2Al2ZrO13を発見している。水の取り込み率を改善すればさらに伝導度を向上できると考え、今回は完全水和した六方ペロブスカイト関連酸化物を探索していた。
探索の結果、Ba5Er2Al2SnO13が、従来材料のBaCe0.9Y0.1O2.95に比べて16倍高いプロトン伝導度を示すことを発見。熱重量分析と中性子回折データを用いて、東北大学と共同で解析したところ、BaO層に存在する酸素空孔が水を取り込み、プロトン濃度が高いことが判明した。
また、一原理分子動力学シミュレーションにより、[ErO6‐ZrO6‐ErO6]八面体層におけるプロトンの高速移動が判明しており、これらが高プロトン伝導度を誘発すると考えられる。
新材料の水の取り込み率は完全水和の100%で、湿潤酸素中、湿潤空気中、湿潤二酸化炭素中、湿潤水素中の各条件において、600℃で熱処理しても分解しない高い化学的安定性を兼ね備えている。
300℃付近の中温域で高いプロトン伝導度と安定性を示す新規プロトン伝導体の発見により、プロトン伝導体を電解質として用いる、プロトン伝導性燃料電池(PCFC)への応用が期待される。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- CNFを用いた燃料電池用の高分子電解膜を開発、高いプロトン伝導性を実現
王子ホールディングスと山形大学は、セルロースナノファイバー(CNF)を主成分とする、燃料電池用「高分子電解膜(PEM)」の開発に成功したと発表した。 - 次世代PCFCを開発、発電効率を70%以上に向上
産業技術総合研究所は、プロトン伝導セラミック燃料電池の発電性能を大幅に向上することに成功した。この実験データを再現可能な計算モデルを確立し、開発したプロトン伝導セラミック燃料電池が70%以上の発電効率を達成可能なことを確かめた。 - ナノサイズの空間に閉じ込められた水が示す、不思議な性質を解明
京都大学は、ナノサイズの空間に閉じ込められた水が示す、不思議な性質を解明した。通常の氷とは異なる特殊な構造、高いプロトン伝導性、水と氷の状態の境目が不明瞭となる現象を観測した。 - フィルム型ペロブスカイト太陽電池の垂直曲面設備への施工方法などを実証実験
コスモ石油、積水化学工業、朝日エティックの3社は、フィルム型ペロブスカイト太陽電池をサービスステーションの屋根と事業所のタンク壁面に設置するための共同実証実験を、コスモ石油中央研究所(埼玉県幸手市)と朝日エティック東京工場(埼玉県加須市)で2024年7月18日から開始した。 - 浮体式ペロブスカイト太陽電池の共同実証実験を東京都北区のプールで開始
積水化学工業は、エム・エム ブリッジや恒栄電設とともに、フィルム型ペロブスカイト太陽電池をプール上に設置するための共同実証実験を、東京都北区で2024年4月3日に開始したと発表した。