グラフェンを用いてTHz電気信号の制御に成功、NTTがGHz超えの高速信号処理で成果:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
NTTが、THzレベルの周波数を持つ超高速の電気信号に制御に向けた基礎技術の開発で成果を得たと発表。グラフェン上に電荷密度のプラズマ振動であるプラズモンの波束を、パルス幅として世界最短となる1.2psで電気的に発生させるとともに伝搬を制御することに成功したという。
フェムト秒レーザーと光伝導スイッチでTHz電気パルスを発生
研究グループは、このグラフェンプラズモンによるTHz電気信号の発生と制御を実現するべく、レーザーパルスを使って発生させたTHz領域の超短電気パルスをグラフェンデバイスに入射し、それによって発生するグラフェンプラズモン波束の伝搬特性と制御性、プラズモン発生効率を実験によって評価した。
使用したグラフェンデバイスについては、NIMS(物質・材料研究機構)が成長させた最高品質のhBN(六方晶窒化ホウ素)を用いて、東京大学の協力の下、NTTでグラフェンの両面を保護し極めて清浄なデバイスを作製した。また、hBNに挟まれたグラフェンに流れるTHz電気パルスを制御する目的で、絶縁膜(酸化アルミニウム)を挟んで金属ゲートとZnO(酸化亜鉛)ゲートを作り込んでいる。
このグラフェンデバイスに流すTHz電気パルスの発生に用いるのが波長1μmのフェムト秒(1000兆分の1秒)レーザーパルスと光伝導スイッチである。光伝導スイッチにフェムト秒レーザーを照射すると、発生した超短電気パルスが導波路を伝搬していく。この超短電気パルスは、導波路のもう一方の端部にある検出用の光スイッチに照射光と時間差を付けてフェムト秒レーザーを照射し、この時間差における電流の時間変化を計測して波形を取得することで検出する。なお、この手法によるTHz電気パルスの発生と検出は、最大で2THzの帯域に対応可能である。
実験の結果、グラフェンデバイスを流れるTHz電気パルスとして、1.2psの超短グラフェンプラズモン波束をチップ上で発生させることができた。このパルス幅は、入射前の電気パルスの時間幅と同等であり、電気的に励起されたプラズモン波束として世界最短であることが分かった。これはTHz領域の電気信号をひずませることなく伝送できていることを示している。
また、グラフェンの電荷密度をゲートにより電気的に変調すると、プラズモン波束の位相と振幅を制御できることも分かった。位相と振幅の制御は、あらゆる信号処理を実現するための基本的な操作であり、THz領域の電気信号を扱う新しい素子動作を実証できたことを意味している。
さらに、変調に用いるゲートの電極材料を変更することで、電気パルスからグラフェンプラズモン波束への変換効率や、閉じ込め効果、伝搬速度、パルス幅などを変化させられることも判明した。つまり、ゲートの電極材料の変更によって、目的に応じたデバイス構造の最適化が可能になることを意味している。なお、ZnOゲートの場合、変換効率は35%に達する。従来の光からプラズモンへの変換効率は最大で0.0005%であり、大幅な効率向上を実現している。
今後は、THz領域におけるより高度な信号処理素子である、周波数可変フィルターや増幅器、変調器などの実現を目指す。今回の成果は、グラフェンプラズモンが電気で扱えることを示したものだが、光によってもプラズモンを発生させられることを考えると、新しい光電融合技術の発展につながる可能性もあるという。
なお、今回の研究成果は、NTT、東京大学、NIMSの共同発表として、2024年7月17日付で英国科学誌「Nature Electronics」に掲載された。
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