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「同一労働同一賃金」の環境下で、パートタイマーの賃金は上昇してきたのか?小川製作所のスキマ時間にながめる経済データ(25)(2/2 ページ)

ビジネスを進める上で、日本経済の立ち位置を知ることはとても大切です。本連載では「スキマ時間に読める経済データ」をテーマに、役立つ情報を皆さんと共有していきます。今回はパートタイム労働者の「平均時給」を一般労働者と比較してみます。

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上昇傾向が続くパートタイム労働者の時給水準

 続いて、パートタイム労働者の平均時給の変化についても眺めてみましょう。

図2:パートタイム労働者の産業別平均時給
図2:パートタイム労働者の産業別平均時給[クリックして拡大] 出所:毎月勤労統計調査より筆者が作成

 全体の平均値(調査産業計、黒色の線)で見ると、一般労働者の平均時給が長期間停滞していたのとは対照的に、緩やかに上昇傾向が継続している様子が見て取れますね。1993年では950円でしたが、2023年には1319円と369円(38.8%)上昇しています。

 産業別に見ても、おおむねどの産業でも上昇傾向が続いていることが確認できます。ただし、一般労働者との差が大きいということも良く分かるのではないでしょうか。

 参考までに一般労働者 調査産業計のグラフ(黒の破線)も表記していますが、大きな差があります。一般労働者と比べると徐々に差は縮まってはいますが、最新の2023年のデータでも49%といまだに半分の水準にも満たない水準です。

 また、パートタイム労働者の時給水準は上がっているものの、平均労働時間は減少しているという事実もあります。このため、月給や年収で見ると、時給の伸びほどの増加にはなっていません。現金給与総額(平均月給)で見ると1993年で9万3719円、2023年で10万4567円と11.6%の伸びにとどまります。

「実質」の時給は増えている?

 経済の数値を見る際には、物価との関連も重要となります。いくら賃金が上昇していても、それ以上に物価が上昇しているのであれば、同じ金額で買えるものが減ってしまい、実質的には貧しくなっていることになります。

 統計データで集計される数値は物価の調整をしていない名目値です。名目値を物価指数で割る事で、物価の影響を除外した実質値を計算できます。

 毎月勤労統計調査では、この物価指数として消費者物価指数(帰属家賃を除く総合)が使われるので、今回は就業形態別の平均時給を、消費者物価指数で実質化した計算値をご紹介しましょう。

図3:就業形態別の平均時給(名目/実質値)
図3:就業形態別の平均時給(名目/実質値)[クリックして拡大] 出所:毎月勤労統計調査より筆者が作成

 図3は、就業形態別の平均時給について実質値を計算してグラフ化したものです。

 一般労働者の推移に着目すると、1997年から2012年までは、名目値が減少していますが実質値は横ばいです。この期間、日本の物価は下落していて、その分実質値がかさ上げされている状況だったようですね。デフレと呼ばれる物価が下がり続けていた期間と一致します。

 その後、2013年ころから名目値は上昇に転じますが、実質値は横ばい傾向が続いています。特に2022年、2023年は名目値が明らかに上昇しているにもかかわらず、実質値が減少していることが確認できますね。

 近年は物価が上昇しています。賃金の増加具合が、物価の上昇具合よりも小さいため、実質的には賃金が減少していることになります。

 一方で、パートタイム労働者に着目してみると、実質値でも上昇傾向が継続してきたことが分かります。パートタイム労働者の賃金水準は時給で見れば、名目でも実質でも上昇し続けているわけです。ただし、2022年、2023年は実質でもマイナスです。

 近年は賃金とともに物価も上昇していますので、実質的な数値の見方が重要になります。これはその良い例なのではないでしょうか。

 また、日本の統計では実質化の物価指数として、消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が利用されますが、OECDでは民間最終消費支出デフレータが用いられます。この2つの物価指数は傾向がやや異なるため、計算される実質値も違うものになりますから注意が必要です。

働き方による時給水準の特徴

 今回は、産業別に見た働き方の違いによる平均時給についてご紹介しました。

 一般労働者では、平均時給は近年では上昇傾向が見られるものの、長期間停滞が続いてきました。

 時給水準が高い産業は労働者数が少なく、一方で、労働者数の多い産業はそれほど高い時給水準ではありませんでした。労働者の増えている産業でも、賃金水準が低いか、あるいはかつてよりも減少しているといった傾向が見られるのが印象的でしたね。

 パートタイム労働者の平均時給は上昇傾向が続いてはいますが、一般労働者と比べると全体的に低水準です。一般労働者の半分にも満たない産業が多いようです。

 同一労働同一賃金が叫ばれる中で、時給水準が極端に低いパートタイム労働者ばかりが増えていることになります。少しずつ改善傾向はみられるものの、まだまだ仕事の内容と対価について見直すべき課題が多いように思います。

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⇒本連載の目次はこちら
⇒前回連載の「『ファクト』から考える中小製造業の生きる道」はこちら

筆者紹介

小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役

 慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。

 医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業などを展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。


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