自動車を例に考える工業製品の量産品質保証:AMの品質保証とISO/ASTM 52920(3)(3/3 ページ)
本連載では、AMにおける品質保証と、その方法を標準化した国際規格ISO/ASTM 52920について解説する。今回は、自動車を例に工業製品における量産品質保証について考える。
品質保証の体系
さて、エンドユーザーの品質要求「ちゃんと走って、曲がって、止まって、かっこいい車」を保証するためには、自動車メーカーはどのようにするべきでしょうか。ここで、自動車メーカーをA社とします。
A社は自社のお客さまであるエンドユーザーの品質要求を、車のどの部分で満足させるかを考えます。例えば、はじめに「ちゃんと走る」とは、「このような条件の時に、このくらいのスピードが出ることである」とか「このくらいの加速力があることである」とか「このくらいの燃料消費量のことである」と考えます。
次に、各項目について、車のどの部品がそれを担っているかを考えます。ここでは、エンジンがそれを担っているとしましょう。
A社は完成車のメーカーですが、全ての部品を自社で設計、製造するわけではありません。エンジンは、エンジンメーカーのB社から調達しているとしましょう。
B社は、自社のお客さまであるA社からの品質要求「このような条件の時に、このくらいのスピードが出ることである」などから、エンジンの各部がどんな材料やどんな構造であるべきかを考えます。その結果、A社の品質要求事項を満たすため、エンジンに使われているボルトの仕様が決定したとします。
B社もまた、全てのエンジン部品を自社で作っているわけではありません。先ほどのボルトはボルトメーカーのC社から調達しているとします。そしてB社はボルトの仕様からC社に品質要求をすることになります。
C社は、そのボルトを自社で設計、製造していますので、お客さまであるB社に対して、
- 納入品の品質は保証される、という事前の証明
- 品質の一貫性、再現性の証明
という品質保証をするわけです。
このように、工業製品でエンドユーザーが存在する量産品においては、製品メーカーによる品質保証、その構成品を製造しているメーカーによる品質保証、構成品のそのまた構成品を製造しているメーカーによる品質保証、というように積み上げていくことで、最終的な製品の品質をエンドユーザーに対して保証しているのです。
今回は工業的な量産の品質保証の全体像をみてきました。お気付きの読者もいらっしゃるかもしれませんが、実はC社は、A社の自動車に使われる、B社のエンジンのボルトをAMで量産しているのです!
次回はC社のようなAMで量産品を作る工程の品質保証システムの構築について(前回ラーメン屋で説明したのと同じように)見ていきましょう。
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