自動車を例に考える工業製品の量産品質保証:AMの品質保証とISO/ASTM 52920(3)(2/3 ページ)
本連載では、AMにおける品質保証と、その方法を標準化した国際規格ISO/ASTM 52920について解説する。今回は、自動車を例に工業製品における量産品質保証について考える。
工業製品の品質保証
第1回で、スイカの品質について考えましたね。お客さまはスイカを買う前にそのスイカが甘いことを保証してほしいのでした。このように品質保証とは前もって品質要求事項に責任を持つことでしたが、スイカであれば「買った後、甘くなかったら返金します」という方法で品質保証の合意を形成することも可能かもしれません。
しかし、これが工業製品であったらどうでしょう。飛行機の部品を量産し「買った後、仕様より弱い力で壊れたら返金します」とか、インプラントを製造し「体内に装着後、材料が仕様通りでないことがわかったら新品と交換します」というようなことはできません。
また、自動車の部品を1000台分量産し、「1000個全部調子がいいとは限らないので予備で5個入れておきました」というのも、特に機能部品などではできません。
つまり、工業製品の量産においては、
- 納入品の品質は保証される、という事前の証明
- 品質の一貫性、再現性の証明
が必要です。
エンドユーザーの要求品質が満足されるまで
では、ここからは工業製品の代表として自動車を例にとりながら、エンドユーザーの要求品質がどのように満たされるのかを見ていきましょう。
自動車のエンドユーザーは、実際に自動車を買って乗る人です。エンドユーザーの要求品質は、「ちゃんと走って、曲がって、止まって、かっこいい車」などです。では、エンドユーザーは買いたい車がこれらの品質要求事項を満たした=高品質な車であるかはどう確認すればいいでしょうか。
これらの要求品質は、実際にはエンドユーザーが一人ずつ自動車メーカーに対して要求しているのではなく、自動車のカタログやそこに記載されているスペック(仕様)を見て発注することで、要求が行われています。
そして繰り返しになりますが、エンドユーザーは自動車を買ってからその品質を確認するわけにはいきません。
- ブレーキがちゃんと効くと聞いていたのに効きませんでした
- ハンドルを切れば曲がると聞いていたのに曲がりませんでした
- 高速道路でアクセルを踏んだのに時速30km以上でませんでした
といったことが起きてはいけないのは明らかです。
そのため、エンドユーザーがいる量産品は多くの場合、お客さまがその製品を買う前に、お客さまの品質に対する期待を満足していることを、作る側や売る側が責任を持つことが必要なのでした(品質保証とは何か、その定義を考える)。
エンドユーザーが、買いたい車の品質、ブレーキ性能、走行性能、耐久性能、衝突安全性能… などを自分で確認することはできないので、法律や業界、作る側、売る側の人が「大丈夫ですよ」と証明してくれる仕組みになっています。
次は、その売る側、作る側がどのような方法でエンドユーザーに対し品質保証をしているのかを見ていきましょう。
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