リン酸鉄系リチウムイオン電池に超イオン伝導性電解液を適用、2025年に実用化へ:材料技術
旭化成は、開発した超イオン伝導性電解液を使用したリチウムイオン電池のコンセプト実証に成功した。
旭化成は2024年6月7日、開発した超イオン伝導性電解液を使用したリチウムイオン電池のコンセプト実証(PoC)に成功したと発表した。
この超イオン伝導性電解液は、溶媒にアセトニトリルが含まれており、既存の電解液では実現困難な高いイオン伝導性を備えている。さまざまな機能を有する電解液成分を調合することでリチウムイオン電池用電解液として狙った機能を発現させるための独自の電解液組成調合技術と、活物質と電解液との界面に電子絶縁性とリチウムイオン伝導性を持つ不働態被膜を均一に形成する界面制御技術により、現行リチウムイオン電池の課題である「低温下での出力向上」と「高温下での耐久性向上」の両立も実現した。これらは、出力向上/急速充電などを可能とし、電動自動車(EV)などにおける搭載電池の削減や電極の厚膜化による電池の容量アップおよび低コスト化に貢献する。
今回の実用化に向けたPoCは、リン酸鉄(LFP)系円筒電池で実施され、−40℃の極低温でも高い出力で動作し、かつ60℃の高温でも高い充放電サイクル耐久性を有することが実証された。今後、自動車メーカーやリチウムイオン電池メーカーとの連携を強化し、2025年の実用化を目指す。
ノーベル賞を受賞した吉野彰氏の研究室が手掛ける
リチウムイオン電池は、一般的には10〜45℃程度の温度範囲内での使用が推奨されているが、近年、電動モビリティや電力貯蔵システムの多様化、また世界各国におけるリチウムイオン電池の需要拡大に伴い、低温および高温下で使用するニーズが高まっている。しかし、低温下では、電池容量および出力の低下、長い充電時間が問題であり、高温下では、電池の劣化が加速され、寿命が短くなる問題がある。
そこで、旭化成は、アセトニトリルの高い誘電率と安定性に着目し、ノーベル賞を受賞したことで知られる同社名誉フェローの吉野彰氏が2010年から率いる吉野研究室で超イオン伝導性電解液の研究開発を開始した。その結果、独自の電解液組成調合技術と電極/電解液の界面制御技術により、低温下で高い電池性能を維持するとともに、高温下でも高い耐久性を有する電解液を実現した。
現在、同社は、顧客との共創において研究開発の段階から技術供与やコンサルティングを通じて収益化を目指していくような新たな取り組み「テクノロジーバリュー事業開発」を進めている。今回のPoC成功を契機に、開発した超イオン伝導性電解液の技術をリチウムイオン電池メーカーに広くライセンスすることで、リチウムイオン電池の高性能化とコストダウンおよび低炭素社会に貢献する。
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