つながるだけでは不十分? 革新的な価値を生む「いいIoT」とは:結果を出す製造DX〜人を育ててモノの流れを改革する〜(5)(2/2 ページ)
モノづくりDXの重要性が叫ばれて久しいが、満足いく結果を出せた企業は多くない。本連載ではモノの流れに着目し、「現場力を高めるDX」実現に必要なプロセスを解説していく。第5回はIoTの中でも「オンプレIoT」と「デジタルネイティブIoT」の違いを解説したい。
オンプレIoTとは?
単にデジタルネイティブIoTといわれても、具体的にどういう物を指しているのかなかなか分からないだろう。先にオンプレIoTがいかなるものかイメージを共有しておきたい。筆者がオンプレIoTの代表格だと考えるのは、テレビのリモコンだ。
リモコンがインターネットにつながって10年以上たつ。その間、機能の増加に伴ってユーザーができることの幅は広がった。しかし、リモコンのボタンは増える一方だ。これはユーザーにとって、本当に便利になった状態といえるだろうか?
リモコン上では1〜12チャンネルに対応したものに加えて、多種多様な機能も配置されたボタンを操作することで利用できるようになっている。だが、自分が利用したい特定の機能をリモコン上でいちいち探すのは、必ずしも便利だとはいえない。
また、一瞬でチャンネルを変えたいというニーズを持ち合わせない筆者にとっては、全チャンネルのボタンが並んでいなくても良いのではないか? と思ってしまう。画面上で検索できる方が便利だ。
いらぬ心配だが、「仮に13番目のチャンネルができたら、このリモコンは回収されるのか?」と考えることもある。実際にチャンネルができるかはともかく、ここで言いたいのは新機能の追加という観点で不便に感じられるということだ。
一方でGoogleやApple、Amazon.comが提供しているリモコンを見たことはあるだろうか。これらはシンプルで、なるべく画面上(クラウドソフト上)で操作できるようになっている。ユーザーにとって使いやすい、理想的なデバイスはこうした形態であるように感じられる。
デジタルネイティブIoTの車を妄想してみる
デジタルネイティブIoTとは何かを語るに当たって、少し自動車の例を出したい。自動車業界では近年「Software Defined」というキーワードが盛んに用いられている。本当の意味でのSoftware Definedが実現できれば、顧客体験の幅もさらに広がっていくだろう。
逆に言えば、従来のクルマはほとんどのデータが車両側にあるため、顧客体験の幅を広げていくことが難しい状態だった。仮にクルマの“頭脳”や各種データがクラウド側で大半を利用できる状況になったら、どのような変化が生じるか。ここではエンターテインメントの面から少し予想してみたい。
このようなケースが考えられる。まず地図データをクラウド上でカーナビより自在に操作できるようになれば、旅の前日にテレビを見ながら皆でルートを決めて、立ち寄りスポットを整理し、クラウド上に旅のしおりを作るといったことも可能になるだろう。
当日、エンジンをかけるとナビは設定済み。次のスポットに近づけば、歴史的意義のうんちくや、ランチスポットの口コミなどが読み上げられる。帰宅後テレビをつけると、旅の思い出が自動でまとまってスライドショーで表示され、ワイワイ盛り上がる。こんな体験ができるようになればうれしい。
走行データや車内の環境データがクラウド上にあれば、自分の運転の癖や熟練度合いを分析して教えてもらうことも可能になるかもしれない。また、筆者は都心ではレンタカーやカーシェアをよく使うが、共通サービスにログインするだけでシートやミラーの位置、冷暖房が自分好みの設定になればありがたい。
話が脱線するが、筆者自身は自動運転の実現には肯定的だ。多くのユーザーの運転データから学習したアルゴリズムであれば安心して命を預けられると思っている。個人情報などのセキュリティ面に関しても、筆者のブレーキ回数に興味がある人はいないだろうと感じるているため、何の不安もない。
話を元に戻すが、このように、クラウド上で動くサービスやシステムがハードウェアを通じてユーザー体験を定義している。これが、デジタルネイティブIoTだ。自動車で言えば、テスラの自動車はデジタルネイティブIoTを良く体現した例だと思う。同社の自動車の所有者からは、「(国内では)充電ステーションが少ないので、電気で走ることだけが不便だ」という声を聞く。
もちろん本連載で話したいのは、電動化がどうかということより、「いいIoT」をいかに作るかということだ。これが日本製造業の最大のチャレンジになる。次回、最終回では「いいIoT」をどう作ればよいかについてお話する。
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筆者紹介
林英俊(はやし ひでとし) スマートショッピング代表
ローランド・ベルガーで製造業中心に経営コンサルティング。Amazon.comで定期購入・有料会員プログラムの立ち上げ・グロースを経験。
スマートショッピングを創業、リアルタイム在庫把握で現場カイゼンが可能な生産管理DX「スマートマットクラウド」を展開。DXやIoTに関する講演多数。
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