カーボン系の新素材「GMS」がリチウムイオン電池の性能向上を加速する:素材/化学インタビュー(2/2 ページ)
近年、リチウムイオン電池の性能を向上するために導電助剤の改良が注目されている。そこで、今回は、リチウムイオン電池の入出力向上や長寿命化、高容量化に役立つ導電助剤用であるグラフェンメソスポンジ(GMS)を開発し、展開する3DC 代表取締役の黒田拓馬氏に同製品について聞いた。
リチウムイオン電池向け導電助剤用GMSの開発背景
MONOist 導電助剤用GMSの開発背景を聞かせてください。
黒田氏 導電助剤用GMSの開発背景を説明するためにリチウムイオン電池の進化の歴史を振り返っておきたい。リチウムイオン電池は1990年代から実用化され始めた。リチウムイオン電池の機能向上では最初、メイン材料である活物質や電解液の改良が中心に行われ、容量や寿命が伸長していった。ところが、これらの改良技術も限界を迎えてきており、徐々に導電助剤やバインダー、添加剤の機能向上が求められるようになった。
現在、導電助剤として利用されるケースが多いカーボンブラックはタイヤの補強材として開発されたもので、リチウムイオン電池に最適化された導電助剤ではない。そこで、リチウムイオン電池向けにグラフェンの構造などを最適化して導電助剤用のGMSを開発した。
なぜこれまでリチウムイオン電池に最適な導電助剤が開発されていなかったかというと、導電助剤のメイン素材である炭素材料は、オイルやガスの原料を大量に不完全焼成させて生産するという手法を取っていたため、その構造を精密に制御することが困難だったからだ。
一方、当社の導電助剤用GMSはμmからnmの細かいレンジにわたり構造を精密に制御できる。これにより、対象のリチウムイオン電池に最適な導電助剤用のGMSを作れる。
導電助剤用GMSの特徴とは?
MONOist リチウムイオン電池向け導電助剤用GMSの特徴を聞かせてください。
黒田氏 導電助剤はリチウムイオン電池に電気を通りやすくして入出力を上げる役割を果たす。導電助剤用GMSをリチウムイオン電池に利用することで、従来品と比べて電流の入出力を向上できる。これは、EVで求められている急速充放電性能に貢献することを意味する。
導電助剤用GMSは化学的に劣化しにくい構造のためリチウムイオン電池の寿命も延ばせる。現状、電池産業はサプライチェーンの持続性がない形でスケールアップしているため、リチウムイオン電池の長寿命化はとても重要だ。高容量化にも導電助剤用GMSが役立つ可能性も把握している。
今後の展開
MONOist 3DCにおけるGMSの今後の展開を聞かせてください。
黒田氏 現状、リチウムイオン電池向け導電助剤用GMSはサンプル出荷の段階だ。採用には2〜3年かかり、2026〜2027年に製品に導入されるだろう。リチウムイオン電池向け導電助剤用GMSの製造では既に量産化で利用されているプロセスを用いているため量産しやすいとみている。
リチウムイオン電池への搭載方法は、スラリーに活物質およびバインダーとともに導電助剤用GMSを混ぜるだけだ。電極全体に占める導電助剤の比率は、一般に1〜3%程度と少なく、GMSの場合はさらに添加量が減らせるため、既存のリチウムイオン電池製造プロセスになじみやすい。
また、導電助剤用GMSを利用することで最初は他の導電助剤と比べてコストは微増するだろう。ただ、リチウムイオン電池全体における導電助剤のコストは1%を下回り、微増してもコスト全体における影響は少ない。加えて、当社では、価格競争力を付けるための施策に関する検討も行っており、将来はコストを下げることも視野に入れている。
導電助剤用GMSの原料は、金属を使っておらず、炭素材料の原料である石油あるいは天然ガスが利用できれば問題なく生産でき、これらの供給に関して現状は懸念していない。
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