ルネサスのアルティウム買収が真価を発揮するのは2030年?:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
ルネサス エレクトロニクスが同社の概況や事業方針などについて説明。2024年下半期中の買収完了を予定しているアルティウムとのシナジーによる価値創造が軌道に乗るタイミングが2030年ごろになることを示唆した。
「あまり遠くない将来デジタルプラットフォームを一つにまとめる」
デジタル化の施策の中核を成すのが2024年下半期中の買収完了を予定しているアルティウムの存在である。現時点では、ルネサスには自社製品向けの開発ツールやソフトウェア開発を容易に行える「Quick Connect Studio」などがあり、アルティウムにはECADの「Altium Designer」、電子機器設計のクラウドプラットフォーム「Altium 365」などがある。柴田氏は「あまり遠くない将来、これらを整理してデジタルプラットフォームは一つにまとめ、その上に1000、2000、3000以上の開発ツールやソフトウェア、データなどが利用できる状態を作っていきたい」と強調する。
買収完了が前提となるものの、この一つにまとめたデジタルプラットフォームの立ち上げは最初の2年間で行うことになる。「デジタルプラットフォームの構築は、一から新規に開発するのではなく、現在あるさまざまなソリューションをエコシステムとして組み込めるように仕立てていく。それらのソリューションを提供する企業をどのようにパートナーとして巻き込んでいくかが重要だ」(ルネサス ヴァイスプレジデント 兼 ソフトウェア&デジタライゼーション ヘッドのブブナ・アイヤギャリ氏)。買収完了から5年間でデジタルプラットフォームのユーザー数拡大を進め、買収完了から7年間をめどにクラウドベースのオープンプラットフォームとして構築を完了することを目指す。
また、アルティウム買収のシナジー効果の拡大は、このデジタルプラットフォーム構築の進展によって加速していく。まず、買収後のレバレッジ解消にはこれまでのM&A案件と同様に3年程度かかる見通し。コスト面の効率化によるシナジーは買収完了直後から進める一方で、売上高へのシナジー効果は少し遅れて得られる見通し。買収から6年以内に投資回収を完了させたい考えだ。そして、デジタルプラットフォームを立ち上げて本格的に拡大していくタイミングには、ルネサス全体の業績拡大に大きく貢献する要因になるという見立てだ。「アルティウムがソフトウェア企業であること、これまでのM&Aと異なり買収後も企業体を残すこともあり少し長い目で見る必要があるが、これまでのM&Aの経験は十分生かせるだろう」(ルネサス 執行役員 兼 CFOの新開崇平氏)という。
アイヤギャリ氏、新開氏とも、アルティウムの買収によって立ち上げるデジタルプラットフォームが真価を発揮するタイミングを買収完了から約6年後に設定している。つまり、2030年に2022年比で6倍の時価総額を目指す施策としては、このデジタルプラットフォームの本格展開が最後のピースになる可能性が高い。
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