欧州電池規制に対応、自動車/蓄電池の“日本版”サプライチェーンデータ連携始動:製造マネジメントニュース(2/2 ページ)
自動車メーカーや日本自動車部品工業会、電池サプライチェーン協議会などが設立した「自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター」は、自動車や蓄電池のサプライチェーン企業間でデータ連携を行えるサービス「トレーサビリティサービス」を開発し提供を開始するとともに、会員企業の募集を開始した。
公益デジタルプラットフォームとして中立性を確保
ABtCによるトレーサビリティーサービスは、ウラノス・エコシステムの仕組みを活用し、第1弾のユースケースとしてリリースされた。自動車業界の関係者にとって必要な機能やインタフェースを整えたシンプルな基盤で利便性を確保している一方で、プラットフォームそのものの運営の中立性や安全性を確保するために「公益デジタルプラットフォーム運営事業」とし、公益デジタルプラットフォーム運営事業者認定制度が創設され次第、申請予定としている。さらにCatena-Xなど海外のデータ基盤との相互接続や運用に向けた対応を検討する。
具体的なサービスとしてABtCは保証されたデータを収納するトレーサビリティ基盤を用意し、ここに蓄電池メーカー、電池セルのメーカー、部品や素材メーカーなどがそれぞれカーボンフットプリント情報を記録することで、取引先のカーボンフットプリント情報を一元的に管理して利用することができる。ただ、取引関係などは企業競争力にもつながる問題でもあるため、それぞれの情報を誰にどういう目的で提供するのかを制限できるようにし、リアルでの機密情報開示と同じような仕組みをデジタル空間上で実現することを目指している。
カーボンフットプリント情報の収集については、見える化アプリなどを展開するアプリベンダーが連携予定だとしている。事前の実証に参加し、現在サービスにも参画予定のアプリベンダーは、アスエネ、アビームコンサルティング、SAP、ゼロボード、dotD、野村総合研究所、booost technologies、富士通、三井物産の9社だという。
藤原氏は「製品ライフサイクルでのカーボンフットプリント情報をまとめようとすると、使った部品それぞれ1個当たりのカーボンフットプリントや関わる工程でのカーボンフットプリントなどを集めていく必要がある。ただ、どういう部品や材料を使っているのかが分かると蓄電池そのものの製品競争力に影響与えかねない。そこで取引先情報など見せたくない情報は伏せたうえでカーボンフットプリント情報を流すなどの仕組みが必要だ」と語る。
ABtCのシステムやサービスの開発は、アーキテクチャについては、ウラノス・エコシステムにおいてIPAのデジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)が担っているが、各サービスについては、ABtCで仕様を決め、公募により事業者を決める仕組みをとっている。今回のトレーサビリティーサービスについては、NTTデータが実際に構築したが、データの安心安全な流通に向けては、ブロックチェーンの分散台帳管理、スマートコントラクト、暗号化や改ざん検知の技術を活用し、機密情報保護と自由なデータ交換を両立するプラットフォームを実現したとしている。
ABtCのトレーサビリティーサービスは5月7日のリリース後、まずは会員企業を募りながら、実利用を進めていく方針だ。価格については「参加企業は基本料金をまず払っていただき、加えてデータ利用料をいただく形になる。ただ、データを提出するだけの企業に対してはデータ利用料は徴収しない。活用する企業についても企業規模に応じて傾斜をかける方針だ」(藤原氏)としている。
今後は、提供サービスについてもトレーサビリティーだけではなく、効率化や強靭化、設計や製造の最適化などに広げていく方針だ。さらに、製品領域としても蓄電池だけでなく、その他の構成部品を含む自動車全体に広げていく。「カーボンフットプリント情報だけでなくデューデリジェンスなどでの活用にもつなげていく。自動車1台丸ごとのライフサイクルアセスメントに使えるようにしていく」と藤原氏は今後の展開について語っている。
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