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フローで考える熱のモデリング(その1) 〜熱の理論と熱回路網解析〜1Dモデリングの勘所(31)(4/4 ページ)

「1Dモデリング」に関する連載。連載第31回では「フローで考える熱のモデリング(その1)」と題し、フローで考える熱の理論と熱回路網解析について取り上げる。

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伝熱の3形態

 以上、熱伝導による伝熱問題を考えてきたが、伝熱には熱伝導の他に「対流熱伝達」と「放射伝熱」がある(図6)。

伝熱の3形態
図6 伝熱の3形態[クリックで拡大]

 図7を用いて、対流熱伝達のメカニズムを説明する。熱は熱伝導によって、加熱面からこれに接する空気に伝わる。これにより加熱面に接する空気の温度は高くなり、密度が減少して、空気の流れ(上昇流)が生じる。このため、熱伝導によって伝えられた熱は空気の流れによって上方に運ばれる。このように、温度の異なる固体面と流体の間には、熱伝導と対流による熱移動が生じる。そのような形態の熱移動を「熱伝達」あるいは対流熱伝達という。図7の例は外部からの流れがない自然対流による熱伝達で、ポンプやファンの外部からの強制対流による熱伝達もある。前者を「自然対流熱伝達」、後者を「強制対流熱伝達」という。

対流熱伝達
図7 対流熱伝達[クリックで拡大]

 熱伝達の大きさ、すなわち熱流束q[W/m2]は、固体表面の温度Twと流体の主流の温度Tの差(Tw−T)に依存し、下記の形式で表現する。

式22
式22

 h[W/m2K]は「熱伝達率」と呼ばれ、流体の物性だけでなく、流れの性質に強く依存する。なお、熱伝達の場合の熱コンダクタンスは伝熱面積をA[m2]として下記となる。

式23
式23

 図8に熱伝達率の条件による違いの目安を示す。自然対流⇒強制対流⇒相変化の順に熱伝達率は大きくなる。「相変化」とは沸騰のように「潜熱」による熱移動の場合で、通常の比熱による熱移動に比べて、潜熱≫比熱であることより、熱伝達率も大きくなる。なお、潜熱とは熱エネルギーの移動が温度の変化をもたらさない、いわゆる相変化の際に、質量Δmを相変化させるのに必要な熱エネルギーの量のことである。相変化は物質の物理的特徴が、ある形態から別の形態に変わる際(固体⇔液体、液体⇔気体)に起こる。

熱伝達率の目安
図8 熱伝達率の目安[クリックで拡大]

 一方、図6右図の熱放射は、熱伝導、熱伝達とはメカニズムが異なる。固体や気体はその温度に応じて電磁波の形でエネルギーを放射または吸収している。このため、温度の異なる固体面同士あるいは固体面と気体間では熱エネルギーの授受が行われる。これを「熱放射」と呼び、熱放射による伝熱を放射伝熱という。熱放射は、熱伝導、熱伝達と異なり、媒体のない真空中でも発生する。熱放射で重要なのは、波長領域として可視領域から赤外および遠赤外領域の光で、これを「熱線」という。熱放射では、理想的な放射体または吸収体として黒体を考える。黒体は受ける熱放射エネルギーを完全に吸収するとともに、熱放射エネルギーを最も良く放射する物体である。ただし、完全な黒体は現実には存在しない。黒体面から放射される単位時間、単位面積当たりの熱放射エネルギーの大きさは下式(ステファン・ボルツマンの式)で与えられる。

式24
式24

 σはステファン・ボルツマン定数で、σ=5.669×10-8[W/m2K4]である。また、温度Tは絶対温度である。実際の固体面からの熱放射は、面の粗さ、酸化の状態などの表面性状が関係し複雑である。そこで、工学的には灰色面なる概念を導入することがある。灰色面からの熱放射の大きさは黒体面からの熱放射に比例するとして、下式で表現する。

式25
式25

 εは放射率(無次元)で0≤ε≤1の値をとる。

 実際には、高温側物体の温度をT1[K]、低温側物体の温度をT0[K]、伝熱面積をA[m2]として、この間の放射伝熱は下式で定義される。

式26
式26[クリックで拡大]

 ただし、ここで定義した熱コンダクタンスは、熱伝導、熱伝達と対比する形で形式的に定義したものであり、意味はない。実際の定式化、解析では放射伝熱の基本式にのっとって忠実に定式化し、解析を行う。



 次回は、今回説明したフローで考える熱のモデリングを、幾つかの事例を通して、伝熱の3形態の定義方法を含めて具体的に紹介する。 (次回へ続く

⇒連載バックナンバーはこちら

筆者プロフィール:

大富浩一(https://1dcae.jp/profile/

1Dモデリングの方法と事例(日本機械学会)

日本機械学会 設計研究会
本研究会では、“ものづくりをもっと良いものへ”を目指して、種々の活動を行っている。1Dモデリングはその活動の一つである。


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