品質保証システムとその前提である品質マネジメントシステムの関係とは:AMの品質保証とISO/ASTM 52920(2)(3/3 ページ)
本連載では、AMにおける品質保証と、その方法を標準化した国際規格ISO/ASTM 52920について解説する。今回は、品質保証システムと、その基盤となる企業自体の、品質を重視する経営の仕組みについて考える。
ラーメン屋の品質保証システムを構築する
ラーメン屋を例に、品質保証システム構築を具体的な業務として考えてみましょう。
まず、該当工程のフロー図を作ります。図2は、とても簡略化したフロー図です。実際には必要な仕入れや原材料の管理などの工程や、メインの工程から派生するサブ工程などをばっさりと省略しています。フローのゴールは、顧客の要求品質を一貫して満足することです。
次に、顧客の要求品質を洗い出します。
味:いつもおいしい、いつも同じ味
→ 常に味の構成要素が同じ:スープの温度、塩分濃度、だしの濃度、麺の太さ、麺の硬さ、具の種類、具の大きさ、具の量
価格:いつも同じ価格
接客態度:いつも親切、いつも注文の受け間違いがない
清潔さ:いつもきれい
続いてこれらに、合格基準(範囲)を設定します。例えば、味であればその構成要素に対して、
スープの温度:80〜90℃
塩分濃度:0.8〜1.0%
などです。また、価格であれば、メニュー表を決定します。
価格(税別):ラーメン 800円、麺大盛 100円、味玉 100円
となります。接客態度のような数字で表しにくいものについても、点数化するなどして基準を決めておきます。
接客態度:ホールスタッフは年に1回の接客試験で80点以上を獲得すること
のようなイメージです。
さらに、いつもそれぞれの合格基準を達成した状態で顧客に納品するための方法とどんな証拠があればその通りに実践したといえるかを考えます。
例)ラーメンの調理
1 各材料の分量と調理方法を定めたレシピ通りに作る
2 社内資格を取得した調理人のみが調理する
3 提供前に、注文内容と商品があっているか確認する
4 ここまでの工程がOKだったことを確認し注文票に調理人がサインする
以上のようなイメージです。
これらを実現するためには、レシピを作ったり、調理人の研修制度や資格認定制度を作ったり、各店舗に資格認定の調理人の名前を貼り出したり、チェックがしやすいような注文票を考えたり、とやるべきことが見えてきます。そして、もし不具合が発生した時に、原因を追究して改善できるような仕組みも必要です。
例えば麺が伸びているという不具合が発生した場合、各工程の証拠を確認します。
調理後30秒以内に提供する決まりなのに、実際は45秒かかっていたとします。その根本原因は、想定より混雑していてホールスタッフが足りなかったからなのか、調理が出来上がったのに気付くのが遅れたからなのか、と追求します。原因が分かれば再発防止のためにはスタッフを増やせばいいのか、調理出来上がりを知らせるベルを導入するのか、というように考えます。不具合をきちんと把握し最後まで解決すること自体の仕組みとルールも必要です。
各工程の合格基準の設定や不具合の根本原因は、4M+1E(Man=人、Machine=機械、Material=材料、Method=方法+Environment=環境)と呼ばれる、特性毎に考えていくと抜け漏れがなくて便利です。
このように、関連する全ての工程が、いつも品質を満足させられる状態、ちゃんとした状態になるようにしていくのが品質保証システムの構築です。
今回は前半で品質保証システムは品質マネジメントシステムを前提にしている、という両者の関係についてみてきました。また後半には、品質保証システムの構築とは、顧客が安心できる仕組みを作って、その通り実行し、その証拠を残し、継続的改善(PDCA)を続けるようにすることである、ということを解説しました。次回は、ラーメン屋さんから離れて工業製品の量産品質保証について考えていきましょう。
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