「ラボなら良品率100%」、全固体電池の量産へ着実に進む日産:電動化(2/4 ページ)
日産自動車は横浜工場に建設中の全固体電池のパイロット生産ラインを公開した。2024年度中の稼働を目指す。
硫化物系固体電解質の使いこなし
硫化物系固体電解質では、固体材料同士の接触面積を最大化してイオン伝導度を向上させることと、硫化水素ガス発生や劣化を抑制するための水分管理に取り組む。材料同士の接触面積を最大化するには、粉状の材料の粒径や形状、材料のプレスなどによって空隙をなくし、バインダーによって密着性を保持する必要がある。バインダーには、リチウムイオンの出入りに必要な活物質間の直接接触を妨げないよう繊維状のものを採用する。これによりセル抵抗を大幅に低減する。
これを実現するには、活物質と固体電解質が均一に分散するよう混ぜること、平滑で化学的に均一な電極を形成することが重要になる。また、セルとして組み立てる前の電極をプレスするときに単純に加圧力をアップするだけでは材料の粒子が破損したり、材料の間に空隙が発生したりする。車載用で必要なセルサイズを実現する上では、生産技術もカギを握る。
バッテリーは充放電によってセルが2割程度、膨張/収縮する。バッテリー内部の均一さを保つには数メガパスカルの力で拘束する機構が必要で、従来は金属バネやモーター送りネジ機構などが採用されてきたが、大きな体積を要する。全固体電池の製品化に向けて、拘束する機構の体積を70%削減する新方式を開発した。
硫化物系固体電解質は水分が大敵だ。製造工程では徹底した湿度管理が要求される。従来のリチウムイオン電池よりも厳しい管理が必要だが、従来のようにクリーンルーム全体と設備内の全てを超低露点環境化するには除湿機の消費電力が大きくなる。そこで、全固体電池の生産では超低露点空間を局所化し、効率的な除湿機の配置や最適な気流を設計することで、従来よりも消費電力を6割削減しながら超低露点環境を実現する。パイロット生産ラインにもこの環境を構築する。
リチウム金属負極の使いこなし
リチウム金属負極は、グラファイト負極に比べて多くのリチウムイオンを抱え込むことができるため、エネルギー密度の向上に直結する。全固体電池は熱安定性が高いものの、従来の液系のリチウムイオン電池と同様に熱暴走対策は必要であり、不純物対策や安定した電解質の採用によって対応する。くぎ刺し試験でも燃えないところまで安全性が確保できているという。
リチウム金属負極も、固体電解質と同様に均一な面圧をかけることや、均一な界面の形成が求められる。負極と電解層の間に中間層を設けることで均一なリチウムの析出と電流の分布を実現する。
こうした要所を抑え、ラボレベルだけでなく車載スペックでも高いエネルギー密度や充放電性能を確保できることを確認済みだ。生産工程のさらなる最適化に取り組み、パイロット生産ラインで実践する。パイロット生産ラインは135m×75mほどの広さがある(付帯設備や除湿機は除く)。電極の材料を混ぜる工程、電極を成形する工程、セルに仕立てる工程、完成後の充放電といったエリアに分かれる。
全固体電池の生産には、プレスや金型、組み立て、加工、接合、触媒や粉体を扱う技術など既存の部品の生産で培った技術が幅広く応用できるという。また、全固体電池の生産工程における品質向上などの課題には、要因系検証活動や一品一葉シートでのノウハウストックなどこれまでのスキームが生きているという。
電動車の販売拡大に向けて生産技術も変わる
日産自動車は、2030年までの中長期の取り組みをまとめた経営計画「The Arc」の中で、2024〜2030年に合計34車種の電動車を発売する方針を示している。各地域での販売台数拡大も目指しており、シリーズハイブリッドシステム「e-POWER」とEVのそれぞれの競争力向上に取り組む。
電動車の販売拡大や競争力向上に向けて、全固体電池など次世代電池の開発だけでなく、工場でもEVを含む電動車の生産への対応を強化する。英国発のEV生産ハブのコンセプト「EV36Zero」は米国や日本でも2025〜2028年度に採用する。栃木工場発の「ニッサンインテリジェントファクトリー」は、国内と英国、米国にも2026〜2030年度で展開していく。
EV36Zeroは、車両の組み立て、電動パワートレインやバッテリーの生産、再生可能エネルギーを活用するマイクログリッドやメガソーラー発電、仕入れ先の拠点で構成される。「水平分業での協業と垂直統合の利点を備えて1つの拠点を設計するという考え方に基づいている」(日産自動車 執行役副社長 生産事業&SCM、購買、関係会社 担当の坂本秀行氏)。
車両の組み立てでは栃木工場にも導入したアンダーフロアの一括搭載システムを進化させる。アンダーフロアの構成部品はサブラインで組み立ててメインラインに供給する体制とすることで、高度な自動化やメインラインの短縮を実現する。サブラインとメインラインの間には戦略的な在庫を持ち、変動に対する強度を持たせるとともに働きやすさ向上にもつなげる。
サブライン化により、作業負荷を軽減し、作業を習熟しやすくする。また、作業者がサブラインやメインラインに短時間でも入れるようにすることで、作業者の体力に配慮し、育児などで時間に制約がある人にも働きやすくする。すでにトライアル中で、現場からは好評だという。
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